小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

旧説帝都エデン

INDEX|34ページ/92ページ|

次のページ前のページ
 

 封鎖されているのは帝都タワーだけではない。帝都タワーから半径1キロメートル全てが封鎖されている。こんなこと前代未聞だ。
 地上、空中、地下、結界が張られておりどこからも侵入できない。もし、進入したとしてエージェントにすぐに発見されてしまうだろう。
 時雨は警察の検問はこっそりと抜けることに成功した。問題はこの後の結界をどう抜けるかだ。
 コートのポケットを探り、時雨は筒状の物体を取り出した。これは時雨愛用の剣であった。しかし、この剣には柄しかない。
 時雨の手から激しい光が弾け飛ぶように出た。剣に刃が出たのだ。その刃は光が集合してできているようだ。
 妖刀村雨――古の名刀からその名を取ったこの剣は、魔導具と呼ばれる魔法で創られた剣なのだ。
 華麗に舞い風を斬る。時雨の斬撃は空[クウ]を切り裂いた。いや、そこにある見えない壁を切ったのだ。
 結界が破られた。その隙間から時雨は中に進入する。
 このままだとすぐにエージェントが時雨を捕らえに来るだろう。だが、どこに隠れようと結界の中に入れば意味がない。
 時雨はふたりの人影に囲まれた。それの二人は豪華絢爛な法衣で見を包んでいる。
「結界を抜けて忍び込むとは誰かと思えば、君か」
 美麗な容姿を持った男は銀色の長い髪を風に揺らしながら時雨を見ていた。そして、時雨を取り囲んだもうひとりの人物はマナであった。
「あらん、時雨ちゃん。こんなところに何の用かしらぁん?」
「ファウスト久しぶりだね。でも、マナが何でここにいるの?」
「質問を質問で返さないでくれるかしらん」
 風が乱れる。ファウストは空間から蒼い魔玉の付いた杖を取り出した。
「残念だが、時雨君の質問を答える権利を私たちは与えられていない。だが、侵入者を駆除しろとは言われたが、見逃してはいけないとは言われていない。早々に出て行ってもらえると私たちは助かるのだが?」
「ヤダ」
 はっきりとした口調で時雨の一言だけを述べた。それだけで十分だった。
 蒼い魔玉が妖しい光を放った。
「おもしろい、このファウストと戦う気か?」
 二人の間に殺伐とした空気が流れ、マナはその間に強引に割り込んだ。
「時雨ちゃん、ここであたしたちに掴まったらトラブルシューターのライセンスを取り消されちゃうわよぉん」
「……それは困る」
 あっさりと時雨は剣を納め、ポケットの中にしまい込んだ。トラブルシューターのライセンスが取り消されると生活ができなくなる。時雨は経済的な人間だった。
 ファウストが不適な笑みを浮かべた。
「魔法通信が入ったぞ。敵が来たとのことだ」
 魔法通信とは魔導士が連絡手段に使う方法の一つで、魔法にとって通信を行い、機械などでは傍受が不可能とされている。
 目には見えなかったがここにいた3人は感じることができた。結界が硝子のように弾け飛んだことを。
 法衣を煌かせながらファウストは時雨に背を向けた。
「優先事項により、君の排除は保留だ。行くぞマナ」
 空を飛び行ってしまったファウストを追うようにしてマナも飛んで行ってしまった。すぐに時雨はその後を追う。
 空を飛ぶ二人のスピードは人間の足では到底追いつくことができず、姿を見失ってしまった。だが、どこに向かっているかはわかる――帝都タワーだ。
 帝都タワー周辺にはエージェントとワルキューレが集結している。一般人はマナと時雨しかいない。マナはファウストの弟子として、補佐役としてここにいるのだが、時雨は全くの部外者だ。
 すぐに時雨は声をかけられてしまった。その声をかけた人物は時雨に今日二度目も声をかけている。
「あらあら、またあなたですの、帝都の天使さん」
「仲間に入れてもらえるとうれしいなぁ〜」
 惚けたようすの時雨に怒るでもなく、こちらも少し惚けたようすで言葉を返した。
「いいですわよ。でも、ライセンスは剥奪させていただきますけど」
「……それは困る。でも、仲間外れも嫌だな」
「では、仲間に入りますの?」
「うん、入れて」
「では、魔法通信でみなさんに伝えておきますが、わたくしたちの邪魔だけはなさらずように気をつけてくださいね」
 フィーアは妙にあっさりしていた。この裏には何かあるのかもしれない。
 微笑を絶やさずに時雨の応対をしていたフィーアの眉がぴくりと動いた。
「帝都の敵が来ましたわ」
 全員の視線が一点に集中される。そこにいたのは殺葵だった。
 時雨の妖刀に似ている剣を持ち、殺葵は優美な足取りでこちらに近づいて来る。その足取りはゆったりとしているが、進んでいる距離は妙に早い。普通の人間に成しえる業ではない。
 誰にも聞こえない声で殺葵は呟いた。
「私は還る――楽園に」
 次の瞬間、ワルキューレたちによる猛攻が始まった。

 現在ここにいるワルキューレの人数は3名、それに加えて帝都政府のエージェントが2名。女帝の護衛をしているひとりのワルキューレを除き、帝都にいるワルキューレ全員がここに集結している。
 ワルキューレに加えて、ここには帝都政府のエージェントも召集されている。エージェントの数は全員で13名、だがここにいるのは2名だけである。2名しか来られなかったのではなく、あえて2名しか呼ばなかったのであるその理由は相手と戦う気が帝都政府にはないからだ。
 帝都政府は殺葵のしようとしていることを止めようとしていないのだ。むしろ、協力しようとしているようにも思える。その真意は何か?
 魔人の如き禍々しい気を放ち散らしながら、殺葵は地面を踏みしめ帝都タワーに近づいて行く。その殺葵が通る道を作るようにして、ワルキューレたちやエージェントたちが左右に分かれる。
 時雨は激怒した。
「なんでみんな奴を止めないんだ!? あいつはこの帝都タワーを壊す気なんだろ!」
 村雨を構え、時雨は殺葵にひとり果敢にも立ち向かって行った。彼を止める者は誰一人としていなかった。皆、傍観者に徹しているのだ。
 光の粒子が村雨の切っ先からほとばしる。剣と剣が噛み合い光が弾け飛び、時雨と殺葵は互いを睨み合った。
 殺葵は剣を片手で持ち、時雨の放った剣技を受け止めたのだ。それに対して時雨は両手で剣の柄を力強く握り締め、腕が震えている。力の差は傍目からも歴然としていた。
 爆風が巻き起こり、時雨の身体が大きく後方に飛ばされた。殺葵が剣で時雨の身体を押し飛ばしながら舞ったのだ。
 地面に膝を付く時雨にマナが駈け寄ろうとしたが、マナの身体はファウストの手によって静止させられた。
「私たちは手を貸してはならない。上の許可が下りるまで見ていることしかできない」
 マナはファウストに反論しようと彼の顔を見上げた。すると、ファウストは歯を喰いしばりながら鋭い目で殺葵を見ていた。
「お師匠様……」
 小さく呟きマナはその場に押し留まった。ファウストもまた自分と同じように助けたいのを我慢しているのだから。
 が、ファウストは堪え性ではなかった。
「……敵を目の前にして、この大魔導士ヨハン・ファウストが黙っていられるわけがないだろう!」
 疾風の如く速さで低空飛行しファウストは殺葵に向かって行った。
「お師匠様!」
 マナの静止もファウストの耳には入らないようだ。