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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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旧説帝都エデン

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 死体に用の無くなった彼は立ち上がると足早にこの場を後にした。
 少し進んだ所で紅葉の足が不意に止まった。
「また、死体か……」
 そこには3体の死体があった。その死体はまたも八つ裂きにされ内臓器が飛び出していた。
 紅葉はしゃがみ込みまた死体の物色を始めた。
「同じ奴の仕業か、しかも今度は血がまだ温かい……獲物が近くにいる可能性が高いな」
 案の定その獲物はすぐに紅葉の前に姿を現した。
「ほほう、四つ足か」
 紅葉の前に姿を現したのは全長3mを越える大狼で、その身体は血で全身が紅く染まっていた。
 狼は紅葉を見るや否や血に染まった毛をなびかせながらいきなり襲ってきた。
 無表情の紅葉は白衣の内側からフラスコを取り出すと狼目掛けて投げつけた。しかし、フラスコは狼に交わされ床に落ちてしまった。が、紅葉はそれも計算に入れていた。床に落ちたフラスコは大爆発を起こし床に大きな穴を開け、狼にもダメージを与えた。
 また攻撃をしようとフラスコを取り出す紅葉を見た狼は尻尾を巻いて逃げて行ってしまった。
「逃げられたか」
 その言い方はまるで最初から逃げられることを予知していたかのような言い方だった。
 紅葉が床を見ると、そこには廊下の奥へと続く血痕が地面にへばり付いていた。さっきの狼の血痕だ。紅葉の目的は最初からこれだったに違いない。
「追ってみるか」
 紅葉は血痕に注意を払いながら廊下の奥へと歩き始めた。

 「あらん、また見つけちゃったわぁん」
 マナははしゃぎながら壁に埋め込まれた宝石を取ろうとしていた。
 宝石は壁に描かれた魔方陣の中心に埋め込まれている。この宝石は魔石といって、石の中にいろいろな魔法や魔力を封じ込めたものである。
 マナは軽快なステップで山済みにされた分厚い本の一冊を手に取った。
「あらん、こっちには魔導書が」
 マナの取った本は魔導書であった。そして、彼女は本の表紙にに付いた埃をふぅーっと息を吹きかけ取ると、本をパラパラとめくった。
「見た事のない文字ね、まぁいいわ家に帰ってゆっくり解読しましょ」
 今彼女がいる場所はこの遺跡の宝物庫らしい。
「もう、全部いただいたかしら?」
 マナはそう言うと辺りを見回した。その目線の先には――部屋には何も無かった。そう、マナが全て回収していまったのだ。
 しかし、マナは何も持っていない、手ぶらだ。回収した物は何処にいってしまったのだろうか? そうマナは手から突然大鎌を出したり出来るように物体を一時的に別空間に保管しておくことのできる術を心得ていたのだ。今回もそれを使った。
 一息付いたマナは満足げな顔をしてこの部屋を後にした。
 部屋の外に出ると道が三方向に分かれていた。どの道を進むべきか迷うところだ。
「さっきは右から来たから、今度は真っ直ぐ行ってみようかしらぁん」
 真っ直ぐの道を選び、彼女が歩き始めてから5分くらいたった頃、彼女の目にあるモノが飛び込んできた。
「あらん、これはお激しいこと」
 マナの目に飛び込んできたものとは死体の山であった。それも八つ裂きにされ内臓器が飛び出し辺りに散乱している。紅葉の時と全く同じ死体だ。しかし、マナはそんなことなど知る余地もない。
 死体のそばにはビデオカメラが落ちている。どうやらこの死体は報道人のものらしい。
「普通なら、『このカメラに何か事件に関する証拠が写ってるかもしれない』とか言って、調べるんだろうけど、あたし機械にはうといのよね」
マナはそう言うと何事も無かったように歩き出した。
「まぁ何か出たら、その時はその時って感じよねぇ〜」
 彼女の神経は並みの人間とは根本的に違うのかもしれない。

 この男は未だに道に迷っていた。迷っているという自覚の無い二人とはえらい違いだ。
「はぁ、今ボクはどこら辺を歩いてるんだろ」
 ダウジングがこの場所ではあまり役に立たないことを悟った時雨は作戦を替え、右手を壁につけながら歩くことにした。その甲斐があったの無かったのか、彼は人影を見つけることができた。
 その人影に駆け寄った時雨であったのだが、その人影は彼の全く知らない人物であった。
 その人物は白い薄布でできたワンピース型の民族衣装のようなものを着た若い女性で、悲痛な顔をして右足を抑え、床にうずくまっていた。
 時雨はその女性に近づき声をかけた。
「どうしたんですか?」
 時雨に声をかけられた女性は、そこで初めて時雨の存在に気づき、はっとした表情を浮かべた。
「どうしたんですか?」
 時雨はもう一度女性に問い掛けた。
「足を怪我してしまって……」
 声には苦痛が混じっているが、澄んだ綺麗な声の持ち主だ。
 時雨は女性が手で抑えている足を見た。
 手の隙間から血が滲み出していて、赤い血が彼女の白い肌を紅く染めている。
「ちょっと、手を退けてもらえます」
 時雨がそう言うと、女性は血で紅く染まってしまっていた細い手を退けた。そこには焼け焦げたような深い傷があった。
 その傷を見た時雨は思わず顔をしかめる。
「ひどいなぁ……」
 そう言って時雨はコートのポケットに手を突っ込むと、小さな小瓶を取り出した。
「これ、塗り薬なんですけど、すごく効く代わりにすごく染みるんで我慢してくださいね」
 時雨は女性に微笑みかけた。その微笑みはまるで天使の笑顔のようであった。この顔で見つめられたら女性はイチコロだろう。
 女性が小さく頷くと時雨は女性の足に薬をやさしく塗り始めた。女性の顔が苦痛で歪む。
「だいじょうぶですか?」
 女性はまた小さく頷いた。
 薬を塗り終えた時雨は次に、コートのポケットから包帯を取り出すと女性の足に巻き、そしてきつく縛った。
「ありがとうございました」
 女性は時雨に対してお礼を言った。
「あぁそうだ、いろいろと聞きたいことがあるんだけど」
「なんでしょうか?」
「そうだなぁ、まず名前。ボクの名前は時雨、君の名前は?」
「…………」
 女性は急に無言になり黙り込んでしまった。
「どうしたの?」
「覚えていなくて」
「じゃあどうしてこの遺跡にいるのかは覚えてる?」
 女性は首を横に振った。
「そう……じゃあ、その傷はどうしたの?」
「魔物に襲われて」
「どんな魔物だった?」
「白くて、火を噴く魔物でした」
「ふ〜ん」
「あなたはどうしてこの遺跡に来たのですか?」
 今度は女性が時雨の質問をしてきた。
「えっ、ボク? ……ボクはね、この遺跡で行方不明になった人たちを探しに来たんだけど」
「遺跡を荒らしに来たのではないのですね?」
「うん、そうだけど……?」
 時雨はいぶし気な表情をしながらうなずいたあと、少し間を置いて納得したかのように呟いた。
「まぁいいか……」
「どうしたのですか?」
「あ、うん、なんでもないよ、あのさぁ、出口とか……わからないよね。ボクは取り合えず向こうから来たんだけど」
 時雨は自分の来た方向を指差し、ふと女性の方を振り返るとそこには女性の姿はなかった。
「――あれ?」
 時雨は女性を探そうと駆け出した。すると、前方に人影が――。
「あれ?」
 連続して驚かされた時雨はそう一言呟くと足を止めてしまった。
 人影は時雨の存在に気づいたらしく時雨に向かって飛んできた。