Journeyman Part-2
プレシーズンとは言え勝利がかかったこの場面、ジミーをマークしていたのはリーグでも屈指のコーナーバックだった。
彼はジミーの動きを察知してストップをかけると、ジミーの前に走り込んでボールを手中に収めた。
インターセプトだ。
(しまった!)
ティムはタックルしようと飛び込んだが、右手で押しのけられてしまい、コーナーバックがゴールに向かって独走する後姿を見送ることしか出来なかった。
28対38、1タッチダウン、1フィールドゴールに点差を拡げられ、ゲームの勝敗はそこで決した。
うなだれてサイドラインに戻ったティムだったが、指揮官のビルは肩を叩いて出迎えただけだった、リックもフィールドから目を離そうとしない、ティムはヘルメットも脱がずにベンチに座ってうなだれることしか出来なかった。
翌週のプレシーズン最終戦もリックが前半プレーし、10-10の同点でティムに引き継いだのだが、ティムは散々な出来だった。
明らかに空いているレシーバーがいるにもかかわらずサイドライン際のパスを投げて失敗し、自分で走れば10ヤードや15ヤード取れそうなケースでもパスターゲットを探すのに必死でせっかくラインが作ってくれた穴を生かせない。
それをサイドラインで注意されると委縮してしまい、楽に通せるはずのパスが短すぎてインターセプトを食らい、挙句にはパスのターゲットを慎重に選びすぎてサックを浴びてしまう……。
オフェンスがまるで前進できないとディフェンスの負担が大きくなり、守り切れなくなる。
第4クォーター半ばで10-31と大きく引き離され、ビルはティムを下げてリックをフィールドに戻した。
するとオフェンスの歯車は再びかみ合い、タッチダウンを奪うと、ディフェンスも奮起して相手を抑え込む。
最終的には17-31と大差での敗戦となったが、悪い流れは何とか断ち切って、開幕まで暗い気持ちで過ごさなければならない事態だけは免れた。
▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽
「あの場面、あなただったらどうしましたか?」
リックがシャワーから出ると、ティムが待ち受けていた。
(来なすったな……)
リックは内心ほくそ笑んだ。
『あの場面』とは第3戦の大詰めでインターセプトタッチダウンを奪われた場面に違いなかった。
第4戦での大乱調は、前の試合でプロの怖さを思い知った結果、どうして良いかわからなくなったのだとリックは見ていた。
それゆえにリックはこれを待っていたのだ、『あなただったらどうしましたか?』を。
自分から学ぼうとしなければ教えたことの半分も身につかない、だが、今ティムの頭の中はリックから学びたいと言う気持ちでいっぱいだ、こういう時に学んだことはしっかりと身に着くものだ。
「裸じゃなんだから、着替えたらメシでも一緒に食わないか?」
リックがそう言うと、ティムは大きく頷いた。
「あの場面な、俺だったらサイドラインぎりぎりを狙っただろうな、レシーバーにチャンスがないと見ればサイドラインに投げ出す」
それが定石だ、それが最もリスクが小さく、成功の可能性も高いから定石なのだ、だが、それくらいのことはティムだって百も承知のはずだ。
「ただ、あのコーナーバックはリーグ屈指の選手だよ、並みのコーナーバックならパスをカットするのが精いっぱいだし、それ以下なら通っただろうな」
「でも、実際にインターセプトされてリターンタッチダウンを決められました、プロでやって行くからには彼の様なコーナーバックを相手にしなきゃいけないってわかってます」
その通りだ、それがわかっているのは望ましい、だが、問題は『だったらどうするか』なのだ、もっともリックにも確実な答えはわからないのだが。
「そうだな、だけど俺にも彼の様に優秀な選手を出しぬく事は出来ないのさ、だからジャーニーマン止まりなんだ、君は俺を、そして優秀なディフェンスを超えて行かなくちゃならないし、それだけの能力はあると思う、ビルは君を予想より良いと言ってるよ」
「それは予想の方が低かっただけですよ」
「おいおい、君はまだルーキーなんだぜ、最初から何もかもうまくいくはずがないじゃないか……俺ならあの場面では定石どおりにやることしか出来なかっただろう、でも、フィールドに立っていたのは君だ、俺にはいくつかの可能性が見えてたよ」
「それはどんな……?」
「一つは切り返して左に走ることだな、左からセイフティが漏れて来てたと言うことはバリー・二ルソンはダブルカバーされていなかった可能性が高い、バリーはサイドライン際のキャッチが上手いし高さではコーナーバックを上回ってた、彼にしか取れない高さに投げればリスクも少ない、だが、これは俺にも今の君にも出来ない、俺の足とクイックネスではセイフティに捕まっちまう、君なら逃げ切れるかもしれないが、サイドライン際で高さ勝負となれば柔らかいタッチのボールを正確に投げる必要がある、そこはまだ君の課題だな」
「確かに……」
「もうひとつはあのままランに切り替えることだな、ラインバッカーが追って来ていたが、君なら振り切れたかもな、俺は君ほど速くは走れないから正確には判断できないが可能性は感じた、俺には出来ないプレーだよ、俺ならサイドラインを割って時計を止められたかどうかも疑わしい、だが君なら最低限そこまでは出来たはずだ、振り切ってサイドライン際を走っていたらファーストダウンを取って、なおかつ時計を止めることも出来たかもしれない」
「それは考えました、でもジミーの動きを見て……」
「クォーターバックとワイドレシーバーの間で阿吽の呼吸が存在するのは良いことだよ、でも味方のレシーバーに釣られちゃいけないんだ、ジミーの仕事はディフェンスを振り切ってパスをキャッチすること、それに専念していればいいが、クォーターバックは試合を作らなきゃいけないからな……ジミーにもまだまだ学んでもらわなくちゃいけない、彼も目の前でインターセプトを食らってショックを受けてるだろうと思うよ、自分の動きが拙かったんじゃないかってね、よく話し合うと良い……それとバリーをもっと生かすことだ、スピードとクイックネスならジミーだが、バリーのスキルは君を助けてくれるぞ、それが三つ目の選択肢だ、あの時、バリーは君が右に走ったのを見て真中に切れ込んで来ていた、ディフェンスを振り切れてはいなかったが、腰くらいの低いボールでもバリーなら捕れないことはない、一方でそこまでのキャッチスキルを持っているコーナーバックはいないよ、カットするのが精一杯だ、カットされてもそれは単なるパス失敗だ、サイドラインに投げ出すのと同じことさ」
「なるほど……でも瞬時に良くそこまで頭が回りますね、俺には真似できそうにない……」
作品名:Journeyman Part-2 作家名:ST