Journeyman Part-2
カレッジでは楽に通っていたはずのパス、ジミーは体半分だがコーナーバックをリードしているように見えた、自分のパスもしっかりコントロール出来ていた。
しかし、パスがジミーの手に収まろうとした瞬間、コーナーバックの手がぐっと伸びて来てボールをカットされたのだ。
(さすがにプロだな、楽には通させてもらえないか……)
ティムはプロのレベルを痛感しながらもう一本パスを投じたが、今度はレシーバーが伸ばした手の先をボールが通ってしまい、失敗。
サードダウン、10ヤードでもう一度パスを試みようとしたが、プロテクションが破られてしまってティムはスクランブルに出た。
8ヤード走ってファーストダウンが見えたのだが、追って来たラインバッカーに押し出されてしまい、パントに追い込まれた。
プロ初めてのシリーズではファーストダウンを更新できないままにサイドラインに戻ったティム、コーチには肩を叩かれただけ、リックもフィールドから目を離さずに何も言わない。
(まあ、今回は上手く行かなかったが、ミスしたわけでもない、次のシリーズで挽回すれば良いさ)
ティムはその程度に考えていた。
その後は相手が主力を下げて若手主体に切り替えたこともあって、ティムのパスも通り始め、試合は28対28の同点のまま残り約1分、サンダースは相手陣内20ヤード近くまで攻め込んでサードダウン残り3ヤード。
コーチからの指示はランプレー、時間を消費してフィールドゴールで勝ち越し、残り時間を守り切って逃げ切ろうと言う作戦だ。
だが、スクリメージラインに着いたティムは相手ディフェンスの隊形を見て、オーディブル(あらかじめ決めたプレーを変えること)に打って出た。
パスに備えるべきセイフティがランを予想して上がり気味だったのだ。
「ハット! ハット!」
カウント2でオフェンスが動き出し、ディフェンスが対応する。
ティムは真っ直ぐドロップバックせず、右へと走った。
当然相手はティムに向かってラッシュして来る、ラインバッカーに襲い掛かられそうになった瞬間、ティムはパスを投げた。
ターゲットはジミー、大学時代からコンビを組んでいた彼はティムの意図を察して相手ゴール前10ヤードで急ブレーキをかけ振り向く、ティムのパスもそのタイミングを予想して投げられたものだった。
ジミーをマークすべきコーナーバックの対応は一瞬遅れ、パスをキャッチした彼はコーナーバックが走って来るのと反対の方向へとターンしてそのままゴールへ駆け込んだ。
タッチダウン!
試合はそのままサンダースが35対28で勝利し、プレシーズンゲームとは言え、初陣を勝利で飾った。
▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽
「実際上手く行ったでしょう? 相手はタイムアウトを2つ残していたし、フィールドゴール圏内まで攻め込まれる可能性もありましたよね? でもあそこでタッチダウンを取って置けばフィールドゴールでは追いつけない、僕は勝利に貢献したつもりですが」
試合後、ティムはビルに呼ばれて、何故プレイを変えたのかを訊かれた。
とがめるような口調に、ティムは少し反感を持った。
「結果的には確かにそうだ、だがプレシーズンゲームとは言えサンダースには初陣だから確実に勝ちたかった、だからあの場面ではランで行ってフィールドゴールに結びつけようとしたんだ、あの距離なら飛鳥は確実に決めてくれる、ランが出なくても相手はタイムアウトを一つ使わざるを得ないから逃げ切れると踏んであのプレーをコールしたんだ、それにケンをオープンに走らせれば3ヤードは取れると踏んでいた、相手のラインバッカーは中央に集中していたからな、ファーストダウンさえ取れればタイムアップ寸前までニーダウンを続けて、あとはフィードゴールを決めれば良いだけだ」
「オーディブルが気に入りませんか?」
「オーディブル全てを否定するつもりはない、だが、あの場面ではやるべきではなかった」
「タッチダウンを取っても?」
「そう、タッチダウンを取ってもだ」
「わかりました、次からはプレーコールに従います」
ティムは不満そうにそう言って部屋を後にした。
(ティムは少し時間がかかるかもしれんな……)
ビルはため息をついた。
自信家なのはわかっていた、だが現時点ではまだ『過信』だ、勝利のためにどうするのがベストなのかをまだ完全には理解できていないようだ、自分がチームを引っ張って行くと言う気概は歓迎だが、それが上手く行かなかった時チームメイトの信頼を失うことまでは考えていないらしい、おそらくこれまでのフットボール経験の中でそんな事態に陥ったことがないのだろう……。
(ジムはここまで読んでリックを取ったのかな……だとしたらさすがの慧眼だ)
そして、その頃、別室ではジムが腕組みをしていた。
(やはりリックを取って置いて良かった……)と。
▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽
プレシーズンゲーム第2戦もリックが先発してティムが後を引き受ける形で勝利、ティムのレイティングは90を超え、80そこそこだったリックをはっきりと上回った。
プレシーズンの第3戦、ハーフタイムまでリックが出場し、14対10とリードしてティムに引き継いだ。
ティムもパスとランでひとつづつタッチダウンを挙げたものの、ディフェンスは踏ん張り切れずに28対31とリードを許して2ミニッツウォーニング(注)を迎え、サンダースは自陣35ヤード地点で攻撃権を得た。
プレシーズンゲームを通して、サンダースはランを多用する攻撃を見せていた。
ケン・サンダースは期待通りのパフォーマンスを見せてくれた上に、ドラフト7巡目に指名したクリス・デイビスが予想外の活躍ぶり、ジムの眼力をもってしても『予想をはるかに超える掘り出し物』だったのだ。
スピードとパワーを兼ね備えたケン・サンダース、変幻自在なクリス・デイビス、大型でパワフルなゲイリー・パーカーと言う異なる個性を持つ3人のランニングバックに加え、クォーターバックのティムも走れるとあってはそれを止めるのは難しい。
だが、このシチュエーションではサイドライン際へのパスを多用するのが定石、ティムもそんなことは百も承知だったのだが……。
ティムはジミー・ヘイズ、バリー・二ルソンへとパスを投げ分け、敵陣40ヤード付近までボールを進めた、あと10ヤード進めばフィールドゴール圏内、15ヤード進めれば飛鳥はまず外さない。
そして次のプレーコールも左サイドのバリーへのパス、だがレフトタックルの外側からパスプロテクションが破られた、パーカーは大柄でパワフルだがスピードはない、相手のディフェンスエンドは防いだものの、その外側からストロングセイフティが回り込んで来たのだ。
ティムは右側へとスクランブルしながらレシーバーを探した、右サイドにはジミーがいるはずだ。
ジミーはコーナーバックを振り切れずにいたが、ティムがスクランブルするのを見て急ブレーキをかけた、カレッジ時代に何度もチームのピンチを救ったランバックのパターンだ、ティムもジミーが戻ってくれることを見越してパスを投げた……が。
作品名:Journeyman Part-2 作家名:ST