Journeyman Part-1
「ディフェンスバックには? セイフティにもベテランが必要だと思いますが」
「抜かりはないよ、シアトルからチャーリー・ウッズを取れる算段はついているんだ」
ディフェンスバックはディフェンス後方に位置してパス攻撃に備えるポジションの総称、ウッズはフリーセイフティと呼ばれる、最後尾のポジションの選手、契約は昨シーズンで切れた筈だが、シアトルが彼を手放すことに同意したのは意外だった。
しかし、シアトルではストロングセイフティにウッズとコンビを組む優秀な選手が在籍していて、更に来年のドラフトにはストロングセイフティにも目玉となる選手がいる、指名順が早いシアトルが彼を取るつもりならば話はわかる、現在のストロングセイフティをフリーセイフティに回してウッズを切るつもりなのだろう。
随分と長い時間、ジムと話し込んで、ジムが作ろうとしているチームの骨格は見えてきた。
豊富な経験が物を言うポジションにはベテランを配し、身体能力が物を言うポジションはドラフトで埋める、リックが良く知らない中堅どころ選手の名前も次々と挙がったが、どれもジムの眼鏡にかなった、伸び代が見込める選手なのだろう。
さすがにジムだ、様々な制約がある中でも隙のないチームを構想している。
「まだ話が出ていないポジションで気になるところがあるんですがね」
「オフェンスラインだろう? センターは決まっているよ」
「誰です?」
「ジャクソンビルからマット・ゴンザレスを取る事になっている」
「ああ、彼なら……」
3年前、リックはジャクソンビルに在籍して10-6の好成績を収めることが出来た、リックのキャリアの中でもベストの1つに数えて良いシーズンだった。
その時のセンターがゴンザレスだった。
巨漢でパワフル、スピードにはやや欠けるからプレーが崩れてしまうと対応が遅れ気味になるが、最初のコンタクトで真ん中を破られる心配は皆無、強力なノーズタックルのコンタクトにもスナップが乱れることがない、安定したセンターだ。
体も顔もいかついが、実は柔和で物静かな男でカレッジの後輩でもある。
ジャクソンビルが彼を手放すことに同意したことを意外に思ったが、ジャクソンビル時代の交流を思い出して納得した。
彼の奥さんは日本人なのだ、彼も大変な日本贔屓だったから本人が日本行きを熱望してチームが折れた形になったのだろう。
「君には済まないが、レフトタックルは狙った選手は取れなかったよ、ドラフト2巡目はティムに使いたいから、3巡目で取る事になる、一応エキスパンションドラフトで確保はしているが」
「レフトタックルはどこも手放さないでしょうから仕方がありませんね」
レフトタックルはオフェンスラインの中で最も重要なポジションとされる、右利きのクォーターバックの場合、左側から襲われると死角になるので、完璧に守ってもらわないとサックされるだけでなく怪我をする可能性もある、パス全盛の現在のNFLに於いてレフトタックルの重要性は増こそすれ下がることはない、どのチームも手放さないのは当然だ。
それでもジムは、3年前のドラフトでは1巡指名を受けた選手を用意していてくれた、まだスターターになれないところをみると伸び悩んではいるのだろうが。
「あとは……」
「レシーバーだろう? クォーターバックなら気になって当然だな、バリー・ニルソンは確保できた、後は若手が伸びてくれるのを期待するしかないが……」
「ニルソンがいるなら文句は言いませんよ」
バリー・ニルソンも大ベテラン、往年のスピードは衰えて来ているが、身長があり腕も長いので高さのミスマッチは狙える選手、パスキャッチのスキルは高く落球はほとんどない、ライン際で競り合った時、フィールド内につま先だけでも残す技術にも長けている。
強肩ではないが正確なパスを身上とするリックにとっては心強い相棒になるはずだ。
「それと、ロスアンゼルスからゲーリー・パーカーを取るつもりなんだ」
「なるほど、それも心強いですね」
パーカーは大型のランニングバック、LAには絶対的エースランニングバックがいたものの、1~2ヤードの短い距離を確実に取りたい時にはしばしば起用された、リードブロッカーとしてのスキルも高いからフルバックの役割もこなせる。
そして、意外と知られていないのがパスキャッチ能力なのだ。
大きな体を利してまずディフェンスラインやラインバッカーにコンタクトしてラッシュからクォーターバックを守り、ラッシュして来た相手が守るべきだったポイントに素早く正確に走り込む、そのスキルが高いのだ、加えて、タックルされても容易には倒れず、1~2ヤードを余計に稼いでくれる、ファーストダウンまであと3ヤード程と言ったシチュエーションでは頼りになる選手なのだ。
華々しい活躍を見せる機会があまりないので地味な選手だが、いかにもジム好みの選手、リックにとっても非常に好ましい、リックは彼を失うLAのクォーターバックに同情してしまうほどだ。
「あとひとつだけ、重要なポジションがあるんですが」
「わかっているよ、ヘッドコーチだろう? ビル・ミラーならば君にも異存はないだろう?」
「ジム……」
「なんだい?」
「俺はトウキョウへ行くのが楽しみになって来ましたよ」
「そう言ってくれると思っていたよ」
こうして東京サンダースはレールの上を走り出した。
作品名:Journeyman Part-1 作家名:ST