小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

Journeyman Part-1

INDEX|4ページ/10ページ|

次のページ前のページ
 

 ティム・ウィルソンは、クリーブランドでリックから正クォーターバックの座を奪ったウィルに似たタイプ、長身、強肩と言ったような、スカウトが注目する要素に目だったところはない。
 だが、ウィルと同様走れるクォーターバックだ、それも無闇に走るのではなく、プレーが崩れた時にその足は真価を発揮する、ラッシュして来る相手から逃げながらレシーバーを探し、それでも空いているレシーバーが見つからなければランに切り替えることが出来る。  
 最初から自分のランとは決めていないのでランで稼いだヤードはそう多くなく、パス一辺倒の攻撃でもないからパスで稼いだヤードも目立つほどではない、だが、チームの勝利を導くことが出来るクォーターバックなのだ。
 ドラフトではおそらく2~3巡目で指名されると目されている、1巡で指名するほど魅力的ではないが成長は期待できる、と言う辺りの評価になるだろう。
 ただし、それは既存のチームに彼を当てはめようとした場合の評価だ、最初から彼を生かスためのオフェンスチームを作るつもりなら話は別だ、ジムが作ろうとしているオフェンスチームがおぼろげながら見えてくる……。
「なるほど、ティムを中心に据えたオフェンスを考えている事はわかりました、しかし、そのチームに俺はフィットしないのでは?」
 リックは走れるタイプのクォーターバックではない、ティムにフィットするオフェンスチームと言うのはややファジーに臨機応変に動ける選手が多いチーム、走れないリックには各自が迷わず自分の役割を果たそうとする、やや頑固なタイプのチームが合うはず、合わないチームでやらされるのであれば、この話は良い話ではなかったことになる。
「そうだな、それは認めるよ」
 ジムの返答は意外だった、しかし、自分にとって耳障りの良くないその言葉を口にするくらいだ、ジムには何か考えがあるに違いない。
「君の頭の中にはウィルがあるだろう? 確かにティムとウィルは似たタイプだが、ティムにはウィルほどの走力はないと見ている、いわゆるモバイルタイプではないんだ、だが、パスの精度はウィルより上だとも見ている、言ってみれば動けるポケットパサーと言ったところかな、オフェンスラインはしっかりクォーターバックを守ってもらわないといかんのだよ」
「なるほど、俺を守れるラインを構築できればティムは活躍できると踏んでいるわけですね? つまり俺はリトマス試験紙みたいなものですかね」
 少し言葉が過ぎるかとは思ったが、ここはジムに本音を吐いて貰いたいと考えての皮肉だった、もっとも、それくらいでジムを動揺させられるとも思わなかったが。
「リトマス試験紙? そんなわけはないだろう?」
「ならば、なぜ俺なんです?」
「判断力さ、君は元々冷静で判断力に優れた選手だったよ、身体能力には恵まれないが、判断力は光っていた、だからこそドラフトしたんだ」
「5巡目でね」
「憶えているさ、もう少し下でも取れるかと思っていたんだが、君を狙っているチームがあるという情報が入ったんでね」
「なるほど、7巡目になる可能性もあったってことですか」
「ああ、ドラフト外にするつもりはなかったがね、確実に取りたかったからな……その辺りの事は君なら理解してくれていると思ったが……」
 確かにジムの言うとおりだ、指名を受けたリック本人も驚いたくらいなのだから5巡目でも早過ぎるくらいなのだ、『確実に取りたかった』と言う言葉にも嘘はないはずだ、そうでなければリックはチャンスを貰えないままにNFLを去ることになっていても不思議はない。

「正直なところ、ティムの方が君より身体能力が高い、身長以外は全ての面でね、だが、経験と判断力は君の方が遥かに上だ、ティムは君から様々なものを学ぶことによってリーグを代表するようなクォーターバックに成長してくれると思っている、それだけの真面目さと頭脳を持っているからな」
「……すみません、あなたの本気度を測るような真似をしました」
「そうか、それ自体はあまり愉快なことではないが、私は心にもないことは言えない性質なのでね……良い答えを聞かせてもらえるのかな?」
「いえ、もう一つ懸念があるんです」
「なんだい?」
「日本のプロ野球に在籍している友人に聞いたんですが、日本ではまだフットボールはあまりメジャーなスポーツとは言えないそうですね」
「そうらしいな」
「物珍しい内は良いだろうが、チームの成績が上らないと定着しないかも知れないとか」
「それも知っているよ、何しろ我々のオーナーは日系人だからな」
「それなのに俺で大丈夫でしょうか? 俺の生涯勝率は4割ちょっとですよ」
「オーナーの言うには、日本人はグッドルーザーを讃える性質があるそうだ、そして戦力が劣る方を応援したがるともね……ハンガンビイキとか言っていたな、サンダースは新設チームだ、私も最初からプレイオフを狙えるとは思っていない、だが、そこそこ戦えるチームなら作れる自信はある、そのチームのクォーターバックには何より堅実な選手を望みたいんだ、それに、フットボールの魅力はパスだけではないだろう?」
「と仰るからには、良いランニングバックにあてがあるんですね?」
「ああ、ある、だけどまだチームに合流すると決めてくれない者には、それが誰かは明かせないな」
「ははは、負けました、サンダースにお世話になります」
「そうか、ありがとう」
「で、そのランニングバックは誰なんです?」
「ケン・サンダースさ」

作品名:Journeyman Part-1 作家名:ST