小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

④全能神ゼウスの神

INDEX|11ページ/12ページ|

次のページ前のページ
 

表情を強ばらせるリカに、ギルが小脇に抱えていたタブレットを開いて見せた。

「これです。」

そこには、粗い画像ながらも確かに金髪の女性がいるのが見える。

「なぜここにいるのか、いつからここにいるのか、全くわかりません。でも、形があるので生きていることは確かです。」

ギルの説明を聞いているのかいないのか…リカはタブレットを取ると、なにやら素早く操作し始めた。

「…ヘラ…。」

「え!?」

驚いてリカの肩越しに画面を覗き込むと、先ほどより処理され鮮明になった画像が見える。

そこに映る金髪の女性は、確かにヘラ様によく似ていた。

しかも、美しい碧眼がまっすぐにこちらを見つめているように見える。

「ヘラ様!」

私が叫んだ時には、リカは寝室を飛び出していた。

私も慌てて後を追う。

けれど、素早いリカは既に廊下に姿がなかった。

「もー!また置いていく!!」

私が怒ると、横を走って来たギルが私を見上げる。

「こっちだ!」

「…私も行っていいんですか?」

少し冷静になって躊躇う私に、ギルがニヤッと笑った。

「あんた、噂の『めい』だろ?」

「…噂?」

訊ね返すと、私を手招きギルは廊下を歩き出す。

「魔導師長はここに来て以来、昼夜問わず必死で二人の女を探していた。ひとりは、さっき魔導師長が口にした『ヘラ』。もうひとりは、『めい』。だから、あんた『めい』だろ?」

「はい。」

「で、しかも『フェアリー』なんだろ?」

「!…はい。」

「たしかに、すっげーオーラだな!!魔導師長がいっつも神界で強いオーラを感じると、すぐ飛び出して行ってたからみんなで噂してたんだ。」

(そんなに探してくれてたんだ…。)

胸が熱くなった時、重厚な扉の部屋にたどり着いた。

「そんだけ強い力があるんなら、この部屋にも入れるからさ。」

そう言いながらギルに中へ促され、私は恐る恐る足を踏み入れる。

「時空の部屋だ。」

そこは、プロビデンスの間と違って優しい水色の光りが満ちていた。

その中心に、リカが立っている。

周りを大勢の魔導師に取り囲まれ、よりその若さが際立っていた。

(若いけど…やっぱり王の風格がある…。)

そのリカに、ひとりの魔導師が大きな杖を持って歩み寄る。

「ん。」

リカはその杖を受けとると、高く掲げた。

その瞬間、青白い光りと共に杖の上に透明な珠が生まれ、その中に虹色の光が宿る。

リカは空中に何かを描くように、その杖を体全体を使って大きくふった。

すると、その杖の軌道に合わせて魔方陣が生まれる。

(すごい!)

虹色に輝く魔方陣を杖で突き刺した瞬間、室内が藍色に変わった。

そして、大小様々な光が現れる。

その中に、惑星らしき大きな星も現れた。

「宇宙?」

私が呟くと、ギルが頷く。

「宇宙でもあるし、時空間でもある。今から、この時空間を魔導師長が一枚ずつ捲っていく。」

(時空間を捲る?)

想像がつかない私の前で、リカが杖をひとふりした。

すると、スクロールするように星が流れていく。

それはさながら流星群のようで、私の目は釘付けになった。

「綺麗…。」

私が感動する間も、リカは全身を使って杖をふり、時空間をどんどん捲っていく。

それに合わせるように、魔導師たちもそれぞれに魔法を唱えた。

その魔法に合わせて、珠が虹色の輝きを強める。

けれど、だんだんとリカの呼吸が乱れてきた。

「…はぁっ…。」

顔色が悪くなり、汗がこめかみから滴り落ちる。

「リカ!」

私は駆け寄り、ふらついた体を支えた。

その瞬間、爆発するように虹色の光が二人から放たれる。

「!!」

虹色の光はそのままリカの杖に吸い込まれていき、珠の中に小さな人影が現れた。

「ヘラ!」

リカ様が杖の珠を手に取り、その中に手を入れようとするけれど、どんなに魔法を唱えても割ることも溶かすこともできない。

「どうやったら…!」

そう言うと同時に、リカが再びふらついた。

「リカ!」

その手から杖がポロリとこぼれ落ち、私は慌ててリカと杖を抱き止める。

けれど、先ほどのような激しい光は起きず、いつも通りの金色の光がやわらかに私たちを包み込んだ。

「リカ、大丈夫?」

リカの体重がのしかかり、私はついよろける。

すると、そんな私をリカは抱きしめながら、弱々しい声で呟いた。

「…お腹…空いた…。」

「!」

(そっか…、朝起きて飲まず食わずだったもんね…。)

「めい、何か作ってき」

「わっはっはっはっは!!!」

突然起きた魔導師達の笑い声が、リカの声をかき消す。

「可愛い!」

「どうしたんですか?魔導師長!」

「甘える姿、初めて見たなぁ!」

口々にからかってくる魔導師達の間から、髭面の小柄な体が現れた。

そして、リカの前に跪くとその顔を覗き込む。

「今日の当番は俺なので、作ってきますよ♪」

ギルの悪戯な笑顔に、リカが体を起こした。

「…。」

そのまま私を放し、不機嫌そうにギルを一瞥する。

「めいのがいい。」

言いながら、黒い瞳を私へ流した。

「!はい!すぐ作ってきます!!」

私は弾かれたように飛び上がると、部屋を飛び出す。

(『めいのがいい。』)

リカのたった一言に、心がどうしようもなく浮き立った。

私はスキップしながら廊下を進んだけれど、はたと立ち止まる。

(…ここ、どこ?)

そもそも、時空の部屋から台所への道順を私は知らなかった。

しかも舞い上がっていたので、どこをどう来たのかわからず、戻ることも難しい。

(…リカ…助けて!)

心の中で叫んだ瞬間、後ろの方でぷーっと吹き出す声がした。

ふり返ると、いつの間にかリカがしゃがみこんでいる。

その体は小刻みにふるえ、大笑いしていた。

「あっはっは!どんだけ面白いんだ!」

リカはそう言うと、涙を拭いて立ち上がる。

「お望み通り、助けてやるよ。」

そして指差した先に、また光の線が伸びた。

「ありがとうございます!」

私は笑顔で頭を下げると、その線を辿って駆け出す。

「めい!」

珍しく大きめの声で、リカに呼ばれた。

驚いてふり返ると、リカがヘラ様の入った珠がついた杖を持ったまま近づいてくる。

「やっぱ私も行く。」

(?)

「お腹、空いてるでしょ?」

「…部屋の帰り道、わかんねーだろ?」

「あ!そういえば。」

私がぽんっと手を打つと、リカがまたおかしそうに笑った。

「おまえってほんと…。」

眉を下げて、見たことがないくらいやわらかな笑顔を向けられ、私の胸は一気に鼓動が高まる。

そっと後頭部を撫でられたら、キラッと二人の体が光った。

「ひとりで部屋にいるのも寂しいしな…。」

ぼそっと呟いたリカの言葉は、どくどくと激しく高鳴る鼓動でよく聞こえない。

「え?」

訊き返す私に、リカはふっと笑みを深め手を離した。

「なんでもねーよ。」

離れた温もりを寂しく思いながら、私は訊ねる。

「朝ごはん、なにがいい?」

リカは一瞬、私から目を逸らして考えた後、私をななめに見下ろした。

「フレンチトーストとシュガートーストで迷ってる。」
作品名:④全能神ゼウスの神 作家名:しずか