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暁の獅子 黄昏の乙女

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 選考会開催の総責任者には、カストルの国に於いて実質的な宰相と目されているエクラー・ビジューが着いている。
 表向きは侯爵家の当主に就いたばかりの若造という事で、筆頭秘書官の地位にいる。実情としては外務大臣も兼任している。先の戦争を機にカストル王国はいざとなると軍事力が強いと世界に知れた事から、外務大臣は比較的楽な仕事と認識されているのだ。実際のところは、諸外国の外務大臣を務めているのは海千山千の年長者ばかりで、とても『只の若造』に勤められるような仕事ではない。
 温和な印象の栗色の髪と神秘的な琥珀色の瞳が、謎めいた印象を与えていて少しでも未熟な者は惑わされてしまう。お陰で人前で話したり他人を煙に巻く事を得意としているなかなかに『食えない人物』なのである。

「ようこそ!遠路遥々我が国の国王陛下、レオニード・カストルの花嫁選考会へおいで下さいましてありがとうございます」

 姫君達がぞろぞろと入ってきた大扉とは反対の位置にある高台に立ったエクラー・ビジュー侯爵が声を張り上げる。
 ざわついていた姫達がしんとして注目する中で少しも怯む事なく、エクラーは話を続ける。

「いよいよ明日から選考会が始まります。が、今宵は遠路遥々お越し下さった姫君方への慰労を兼ねた舞踏会を開催致します。無礼講でございますので、明日からの選考会に備えて英気を養うべくご存分にお楽しみ下さい」

 どっと笑いが起こったのは、エクラーの後ろで控えていたらしい貴公子達からだった。貴公子達の笑い声で緊張が解けたのか、姫君達の間からも笑いさざめく声が広がっていく。
 広間の手前の控室で三々五々散っていた侍女達の間にも、緊張感が解れたほっとした空気が広がっていった。
 エレンもホッとしてリオンに笑い掛け、リオンがにやりと笑みを浮かべたのを見て安心して緊張を解いた。
 リオンが浮かべた不敵な笑みの下に隠した強い緊張には気付かずに。


作品名:暁の獅子 黄昏の乙女 作家名:亜梨沙