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東京人コンパ

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 これが僕の大学生活の話で話は尻切れトンボのように急に終わってしまうんだけど、僕はもう長い時間久美のこととか人間の表舞台にされない、闇の部分について多くを語りすぎた。いろんな女が僕に久美のことを『あの女は注意した方がいい』とか、『女は恐いものだ』とか話したけど、僕も女と同じように淀んだものを心のうちに秘めてると思う。
 僕らは大学を卒業してみんな東京に帰って、普通の生活に戻り、電車の中でも表情のない顔で揺られ、日々を過ごすのだろう。
 きっと青森のことも心の片隅のどっかにはあるんだけど、いろいろなことが色あせていくのだろう。
 そして僕は青森で自分の闇と直面したのだけど、恐ろしいことは僕が東京で暮らしている間、自分にあった当たり前の闇の部分を少しも直視することなく、触れることなく生きてきたんだ。何かの拍子に闇が僕の中に現れた。でも今ではそんな感覚もだんだん薄らいでいく。僕はなんてことなく、現実の社会の戻り、つまらない大人として、社会の一部になっていくのだろう。世の中現実の大半は結局はつまらない話なんだ。本当につまらないもんだよ。
 物事はとどのつまりはつまらない話なんだ。僕はあの騒動で国家に、社会にたてついたんだけど、結局僕が未熟だったってだけの話さ。社会は僕達より大人だったし、国家は僕ら若者よりずっと建築的に築き上げた年輪がある。ただ僕が若かったってだけの話さ。結局のところ。

 そうそう最後に卒業旅行のことだ。僕達青森の大学に行った東京人はニューヨークに旅行に行くことになった。僕もお尋ね者になったけど、警察は優しく短期間で僕達を解放してくれたからね。本当恥ずかしいよ。とにかく僕達はニューヨークに旅行に行ったんだ。それでね。グランドセントラルのね、ニューヨークで有名なハンバーガーを食べるために注文して待ってたんだ。美味しいハンバーガーって聞いてたからね。
 そのとき久美がフラフラと壁際を歩いてたんだ。別に何の用があって歩いてたんじゃないと思うよ。とにかく久美が歩いてたんだ。そのとき一人のニューヨークの人が、
「ハウプリーティー.アーユージャパニーズ?」と言ったんだ。久美は困ってね。
「しーいずじゃぱにーずがーる.ういけむふろむじゃぱん」って忠信が言ったんだ。
「イズザットカーモンサッチアプリーティーガールインジャパン?」っていうからね。僕達は
“そこそこ名が知れているよ。彼女は一時有名になった”って言いたかったんだけどね。僕達は日本語ができても誰も英語を話せなくてね。どう説明していいか分からなくて、たまたま持っていた日本のスポーツ新聞を見せた。僕達が問題を犯した例の事件での新聞だ。一面に僕と久美の顔写真が映っている。でもそこに書かれている日本語は彼らには分からないだろう。
「いっつあす」
「リィアリー?」と言ってその外人は連れを呼んできた。
「ゼイアーアジャパニーズエンターテイナー」って言って、
「キャンアイテイクアフォトグラフ?」って言ったから、
「しゅあー」って言って、数人で僕達の写真を撮るんだよ。そうしたらどういうわけか、どんどん人が集まってきて、みんな「クール」とか言って,みんなで寄ってたかって僕達のことを写真に収めるんだ。
 グランドセントラルの片隅がすごい人だかりになってね。
 そこでフラッシュがバシャバシャたかれてね。最初に杏が笑い出して、それにつられて晴菜が笑って、そしてまたそれにつられて沙織が笑って、みんなで笑いが止まらなくて、僕達はみんなで笑ったね。とにかく本当に笑いが止まらないんだ。ただそのときがあまりに楽しくて、
 何ていうか僕達にとって本当に印象的だった。本当に印象的だった。
                          (終わり)




作品名:東京人コンパ 作家名:松橋健一