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オヤジたちの白球 1話~5話

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 女が目を細めて静かに酒を飲む。コップの酒が半分ほどに減った頃。
季節の食材をつかった小鉢が、3品並ぶ。
「どうぞ」と出される2杯目の酒に、厚めに切られたすだちが浮かんでいる。

 2杯の純米酒と3つの小鉢。これでいつものように一時間。
「ご馳走様、お愛想をお願いします」女がいつものように立ち上がる。


 この瞬間が、男たちの出番になる。
「今日は俺が!」すかさず、あちこちから声が出る。
優先権が有る。女性のとなりに座ることができた幸運な飲んべェが、金を出す。
「悪いわ。それじゃ」いつものように、女がほほ笑む。
それもまた、毎度のことだ。

 「いいってことよ。お安い御用だ。また来いよ。いつでもおごってやるから」

 上機嫌ののんべェに見送られ、女が店から出ていく。
時間はいつもとまったく同じ、午後の8時15分。


 「横から見ても絵になる。だがよ、後ろ姿もたまらねぇなぁ。
 そそるねぇ。あの背中は・・・」

 ガラスの向こうへ消えていく女を惜しむように、店のあちこちから
男たちのため息がもれる。

 「おい。おまえら。女のあとをつけるんじゃないぞ。
 野暮な詮索はやめときな。
 いまから店を出ていく奴は、ひとり3万円の勘定を払ってもらう。
 ほうっておけ。またそのうちに顔を出す」

 (謎の美女か。何者か、正体がわからねぇから余計に気にかかる。
 だがよ。住んでいる場所や、暮らしぶりが露呈してみろ。
 とたんに夢から覚めたような心地になる。
 それにしてもいい女だ。
 俺がもっと若けりゃたぶん、まっさきに、惚れていただろうな・・・)

 女のグラスを片付けながら、祐介がポツリとつぶやく。

(2)へ、つづく