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文目ゆうき
文目ゆうき
novelistID. 59247
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睡蓮の書 五、生命の章

INDEX|38ページ/38ページ|

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 すると空だった玉座に、太陽神ラア・ホルアクティの姿が映し出された。
 少年の姿をした、神々の王。
 溢れんばかりの黄金のうちにたたずみ、彼はにっこりと笑って言った。
「よく来たね! 睡蓮の御子」
 ネフェルテムとそっくりに、大きな黒の瞳を猫のように細めて。
「きみに会えて嬉しいよ」
 
 あの戦から、十年が過ぎた。
 カムアの生み出すラアの“姿”は、十年前のあの頃のままだ。
 しかしカムアの背はずいぶんと伸びた。体つきも以前よりはしっかりとした青年らしいものになり、その青灰色の瞳は涼やかに若い世代を見守る。
 彼はラアと同じ道を進もうとはしないだろう。戦のあと、ラアがこの世界に残した爪痕は深く悲惨なものだった。たくさんの死が広がるのを、彼自身も見てきた。目に見えない傷に苦しみあえぎながら、再生の道をたどる人々の姿をも。
 彼が望み、心酔した太陽神の力――他を顧みず、自我の底をのぞきこみ、ただ己だけを貫こうとした烈しいその意思――が、これらを引き起こしたのである。
 それを望み、求めたことを、彼は後悔しただろうか?
 若き日の過ちと考え、捨て去っただろうか?
 カムアは、彼の力で姿を与えたラアの魂が、ネフェルテムに語りかけるのを、そばでだまって見つめていた。まぶしそうに目を細めて、そのひとが再び目の前にある喜びを噛みしめるように。
 後悔など、ないのだ。彼は今もそれを心のうちに保っている。
 彼が望み求めたもの。それをただひとつの芯として、
 これからを、共に、生きるのだ。 

  ――ラア。
  あなたは僕の中に永久に輝き続ける、僕の太陽。
  その瞬間だけ、ほんとうに「生きた」あなたの輝き。
  己のためにだけ生き、そうして死んだその命は、
  命を燃やし尽くす、一瞬きりの美。
  それは僕のうちがわを焦がしつけ、永遠の時を統べる。

  誰よりも強く、もっと強く――と。



                 睡蓮の書 終