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レナ ~107番が見た夢~(R-15ver.)

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 それまで別の男に抱かれていた事は明らかだからだ。
 そんな時、俺はいつもより激しい劣情に駆られるのだ。

「レナ、レナ、レナ……」
「幸男さん、幸男さん、幸男さん……」
 俺は激しくレナを求め、レナもそれを全身で受け止めて、俺に全てを委ねてくれる。
「あああっ……ああっ……」
「レナ、お前の身体から前の男の痕跡を消してやる、俺のレナ、俺だけのレナ、レナが身体に刻んで良いのは俺の痕跡だけだ」
「消して、忘れさせて、幸男さんだけのレナにして……」
「レナ……愛してる、俺だけのものにしたい」
「私も幸男さんだけのものになりたい……」
 しかし、それは叶わぬこととわかっている。
 もしできるのなら、どんな代償を払ってでもレナを買い取りたいと思う、しかし、このC-インから離れればレナの心臓は止まってしまう、それはクローン人間とリアルな人間を区別して共存するために必要なルール、それを回避することが出来る技術があったとしても法的に許されないことなのだ。
 それがわかっているだけに、この部屋で、107号室で、俺とレナは互いの身体を貪るようにして愛し合う。
 レナは生まれてこの方、この部屋しか知らない、ここで男に抱かれるためだけに生まれて来た。
 しかし、それが本来は愛の行為であることを知ったのはごく最近の事なのだ。
 
 レナは俺を愛してくれている、だが、それを表す術は一つしか知らない。
 ここから一歩も出られない以上、俺達は抱き合い、お互いの身体を貪りあう以外に愛し合う術を持たないのだ。

▽    ▽    ▽    ▽    ▽    ▽    ▽

「これ、着てみてよ」
「え? これって……」

 ショッピングセンターでふと見つけた白いワンピース。
 白一色のコットン、ところどころにレースをあしらっただけのシンプルなワンピース。
 それを見かけたとき、レナに着せてみたい、これを着たレナを見たいという衝動が抑えられなかった。
 そして、それを鞄に忍ばせ、レナの部屋に持ち込んだのだ。

「似合うよ、レナ……本当に可愛い、本当にきれいだ……」
「……嬉しい……」

 シンプルな白いワンピースを着たレナは一幅の絵のようだった。
 窓ひとつない、いつもと変わらない107号室、しかし、俺の目には青い空が、湧き上がる雲が、きらめく海が見え、爽やかな風が通り過ぎた、そしてその中に佇むレナの姿も……。
 レナは勿論、そんな景色を見た事はない、そんな景色が存在することすら知らない。
 俺は頭の中に浮かんだ風景できるだけ詳しくレナに話して聞かせてやった。
 レナが決してそれを体験できない事を知りながら……それを知らずに一生を終えるのが良いのか、イメージだけでも持った方が良いのか、俺にはわからなかった。
 ただ、その話を聴いているとき、レナの顔は、瞳は夢を見るように輝いていた。
 
 だが、クローンは私物を持つ事が出来ない、見つかれば取り上げられてしまうだけ、罰を受けないとも限らない。
 俺はその都度ワンピースを持ち帰り、レナに逢ってはそれを着せて、二人で高原の澄んだ空気の中を散策し、海を訪れて波と遊ぶ夢を語り、そしてそのワンピースを脱がせたレナと愛し合った……。

▽    ▽    ▽    ▽    ▽    ▽    ▽

 しばらくして俺は二週間ほどの長期出張に出なくてはならなくなった、勿論その事はレナには話してある。
 何日で帰るのかも。
 きっと指折り数えて待っていてくれるに違いない、レナの笑顔を思い浮かべると思わず早足になる、駆け出してしまいたいほどに。
 俺自身、早くレナに逢いたくて、レナと愛し合いたくてたまらないのだ。
 
 だが、二週間ぶりに訪れた107号室はドアが閉まっていた。

「107号室は何時ごろ空くかな……」
「107号室? ああ、あなたですか」
「え?」
「107番は停止しましたよ」
「停止?」
「まあ、我々リアルな人間で言えば死んだと言うことになりますかね」
「死んだ?……まさか……どうして……」
「ここをこっそり抜け出したんですよ、この建物から離れれば心臓が止まる事を知っていながらね、遺体は100メートルと離れていない所で見つかりましたよ……馬鹿な事を……」
「そんな……」
「知っていますよ、あなたが107番にご執心だった事をね、107番もまんざらでもないようでしたからね、これはまずいなと思って同じ遺伝子の別のクローンとトレードする話を進めてたんですがね、ちょっと遅かったようです……法的にはあなたに責任はない、しかし、我々は107番はあなたのせいで停まったんだと思ってますよ……もうこのC-インには出入りして頂きたくありませんな」

 レナがいないのならここに来る理由などない……フラフラと立ち去ろうとする俺の背中に辛らつな言葉が投げかけられたようだが、何を言われたの記憶にない。

 レナが……死んだ……。

 俺にはわかる、レナは青い空を見たかったのだ、白い雲を見たかったのだ、煌く海を見たかったのだ。
 それを吹き込んだのは俺だ、俺がレナを海に、山に連れて行きたいなどと夢想したせいだ。
 
 心臓が止まる時、レナは何を見たのだろうか。
 空は、雲は見られたのだろうか……都会の狭くてくすんだ空であっても、それだけは見ていて欲しいと思った。
 そして、その時、俺の顔を思い浮かべてくれただろうか……。
 
 レナと同じ遺伝子を持つ別なクローン?……レナと同じ顔、同じ姿のクローンはきっと他に何人もいるのだろう、だが、レナは一人しかいない。
 俺が愛したレナはもうこの世にはいないのだ……。
 そして、それは俺のせいだ……。

▽    ▽    ▽    ▽    ▽    ▽    ▽

 俺は一時自暴自棄に陥り、仕事も手につかずクビになった。
 僅かに残っていた貯えでどうにか食いつなぐ日々……。

 しかし、俺はなんとか立ち直れた。
 今、俺は海辺の町で旅館の下働きをしている。
 立ち直ることも出来ず、貯えも底を尽いて死んでしまおうかと彷徨っていた時に、この町で煌く海を、青い空を、沸き立つ雲を見たのだ。
 それを目の当たりにした俺は泣けるだけ泣いた、そしてフラフラと海に入ろうとしていたところを宿の主人に止められ、そのまま下働きとして残してもらったのだ。
 仕事の合間に海を、空を、雲を眺めるのが俺の日課、レナを失ったばかりの頃はそれを見るのが辛かったが、今はレナを思い出させてくれる大切な時間だ。
 レナがこの世に存在し、俺と愛し合い、空を、雲を、海を夢見て死んだ、その事を俺は胸に抱き続けなければいけない。
 もしそれが消えてしまったら、レナは本当にいなくなってしまうのだから……。

         終