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レナ ~107番が見た夢~(R-15ver.)

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 中廊下を歩いて行くと、ドアが開いている部屋がある。
 と言うよりも、こんな場所に来るにしてもかなり遅い時間なので、ほとんどの部屋のドアが開いている。
 そして、それぞれの部屋には一糸纏わぬ姿の女がいる、正確には女の姿をしたクローン人間がいるのだ。

▽    ▽    ▽    ▽    ▽    ▽    ▽

 哺乳類のクローンは20世紀末には既に成功していたが、当初は核を埋め込んだ卵子を雌の子宮に戻して育てさせる方法、その後、培養液の中でも育成できるようになったのが2030年頃の事だ、そして、C国でクローンの軍隊が登場したのが2050年頃のことだ。
 クローンは新生児の状態で生まれる、と言うより培養液から取り出されるので、その後兵士として使えるようになるまでは20年近くかかる、C国では培養液実験が成功してすぐに量産を始めたことになる、一党独裁国家ならではの動きの速さだ。
 一方キリスト教圏ではクローン人間の誕生にはかなり慎重だった、神の領域に踏み込む所業なのではないかと言う懸念が働いたからだ。
 だがC国がクローン軍を投入して来たとなれば、A国やR国も手をこまねいているわけにも行かない、世界中でクローン兵士が作られるようになった……だが……。
 クローン兵士ならば替えはいくらでも効くとは言っても、新生児を戦える年齢まで育てなければならないこと、また、兵士の数よりもハイテク兵器の性能と数が決め手になる今の戦争では兵士の数はそう問題ではない、したがって結果的にはあまり戦略的意味を持たなかった、それでも国境を接するC国、R国では継続されたが、A国ではその後、クローン人間の軍事利用は衰退して行き、むしろ別な方面にその技術は利用された。
 女性のクローンだ。
 もっとはっきり言えば売春婦専用のクローン。
 いや、春を提供する側のクローン女には客が付くことのメリットはないので、性奴隷に近いのだが、性的なこと以外は何一つ教えられずに育ち、外部との接点は客だけ、そして売春施設で生まれ一歩も外に出る事のないクローン女たちは、自分たちが性奴隷なのだとは考えていない、ちゃんとした食事と快適な寝床が提供されるだけで不満を抱くような事はないのだ。
 男たちはその施設を『C-イン』と呼んだ。
 性犯罪がはびこっていたダウンタウンにC-インを作ると、性犯罪件数は劇的に減少した。
 ごく安価に性欲を処理できるからだけではない、クローン女は揃って美女なのだ……何しろ細胞の元を美女から採取すれば良いだけの事、何も不美人のクローンを作る必要はさらさらない。
 ただし、クローン売春婦の登場は諸刃の剣だった。
 性犯罪の激減は歓迎すべきことだが、男性側の結婚願望が一気に下降線を辿ったのだ。
 無論、結婚するカップルが皆無になったわけではない、しかし、デートやプレゼントに費やす金をC-インにつぎ込めば、男は性欲の処理にはほとんど不自由しないで済む。
 C-インの料金は、1時間コースならちょっと豪華なランチを食べる程度、一晩を過ごしてもカジュアルなレストランでディナーを楽しむ程度で済む、そのくらいならば稼ぎがそれほど良いとは言えない男でも、それなりに充実したセックスライフを送る事は可能になる、しかも相手はよりどりみどりの美女揃い、お気に入りの娘に入れ込むのも良し、また毎回のように相手を替えるのもよし、リアルな世界と違って自由なのだ。
 恋愛、結婚にまつわるあれやこれやを味わいと考えるか、厄介なことだと考えるか。
 自分の子孫を残す事を喜びと考えるか、重荷と考えるか。
 男と女の関係が、情だけで繋がる夫婦関係に変わって行くのを是とするか否とするか。
 後者を選ぶ男が増えても不思議はない。
 
 そして、当初は女性からの非難も多かったC-インだが、その女性向けバージョンである通称C-ルームが登場するに至って、非難も矛先を失った。

 そして……。
 この世から『恋愛』や『結婚』は急速に減退して行くことになる。

▽    ▽    ▽    ▽    ▽    ▽    ▽

 その頃、俺は相当に落ち込んでいた。
 友達に言わせれば『バカバカしい』らしいが、俺には家庭を持ちたいと言う願望がある、一人の女とパートナーシップを築き、家族を形成して子孫を残す……古い考え方だと言われようとそういう願望があるのだから仕方がない、昔は人間誰しも持っていたはずの願望なのだ。
 そして同じ願望を持つ女性と知り合い、この一年、交際を重ねて来た。
 しかし、俺達はゴールには辿り着けなかった、価値観、人生観、信仰、家庭事情……それら全てが合致しないことには結婚生活を続けて行くのは難しいとされている、少なくともどちらかが歩み寄って合致させなければ結婚など出来ようはずもない。
 俺達は充分に話し合い……別離を決めた。
 彼女に未練はあったし、向こうもそうだと言ってくれたが、完璧なマッチングには至らなかった、そういうことだ。
 
 そして、その晩、俺は夜中まで残業を続けて、翌朝までに仕上げなければならない仕事を片付けた。
 頭も身体もくたくたに疲れてはいたが、明日は休暇を取ってある、週末と併せて三連休だ、心は開放感に満ちていた。
 既に終電は出てしまっているが、明日から休みだと言うのに会社の仮眠室で夜を明かす気になどなれない、無駄な様でもホテルを取ろうかと考えていた時、ふと浮かんだのがC-インだった。
 ビジネスホテルよりは高いが、シティホテルほどではない、一本抜いて貰ってすっきりしてから柔らかな女体を胸に抱いてぐっすり眠ると言うのも悪くない、そう考えてこのC-インにやって来たのだ。

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 それぞれの部屋はごく狭い。
 概ね2メートル×3メートル、その2/3は造りつけのダブルベッドに占められていて、各室にトイレ、洗面兼用のシャワー室、そして客の生体認証で施錠、開錠が出来る、やはり造りつけのロッカーだけ。
 そしてクローン女たちは何も身につけていない、下着すら与えられないのは、裸体を看板にするためでもあるが、それで首を吊ったり客に危害を与えたりしないためでもある、客も荷物と衣服全てをロッカーにしまうことになっている、一応トランクスだけは目こぼしされているが。
 もっとも、クローンにはそんな気はないように思える。
 彼女たちは産まれた時から……培養液から取り出された時からと言うべきか……停止するまで……リアル人間と区別するためにそう表現するのだが……をC-インの中で過ごす他はない、この建物のどこかに厳重に保管されている発信機、その受信範囲から外れると心臓が止まってしまうように細工されているのだ、もう少し科学的に説明するならば、クローンは生後間もなく心臓ペースメーカーを埋め込まれ、自律神経による鼓動は止められる、そして鼓動に必要なパルスと電源は発信機から送られているのだ。