the day of our engagement
「……でも、学校には着けて行けないよ。なくしたら嫌だし、……ちょっと恥ずかしい」
恥ずかしがることなんてないのに、と自分は思うけれど、彼女の気持ちも理解できなくはない。ものすごく高価でないとはいえ宝石付きの指輪だし、ただでさえ注目を集めやすい自分たちだから、彼女が指輪を着けていったら相当な噂になるだろう。そういう状況に麻痺できるほど彼女は図太くないし、噂の種をわざわざ振りまく気になれないのはもっともである。
「ああ、うん。それは別にいいよ。でも二人でいる時にはできるだけ着けて?」
「……うん、そうする」
今は、彼女がそう言ってくれるだけで充分だ。
まだ赤い彼女の頬にキスをして、次に唇を重ねるーー思いがけず強く感じる熱と、緊張の糸が切れたせいか、突然頭がくらくらしてきた。抱きしめて、そのまま床に倒れ込もうとするのを、焦りまくった彼女に止められる。
「ちょっと、……気が早すぎる」
「あ、ごめんーーベッド行こうか」
「その前に、お風呂入らせて」
「わかった。……いっしょに入る?」
もう、とあきれたようにつぶやいた彼女に、体に伸ばしかけた手をたたかれる。また耳まで赤くなっている彼女の本音は、嫌なのか実はOKなのかどちらだろうとしばし考えて、後者を取ることに決めた。
- 終 -
作品名:the day of our engagement 作家名:まつやちかこ