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まつやちかこ
まつやちかこ
novelistID. 11072
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his pure heart

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 見かける時はいつも手をつないでいたけど、彼女はそれがとても落ち着かない様子で、会話するにも硬い雰囲気をかもし出していた。
 よくよく見れば、可愛くないわけではない、それなりに整った造りの顔は、いつも緊張しているように見えた。それは名木沢も同じで、知らない人間が見たら付き合っているとは思えないぎこちなさがあった。
 実際、知っていても「なんであの二人が付き合ってるんだろう」と思わされる雰囲気で、だから、考えるのは難しかったけど告白は彼女の方からで、名木沢は強引に押されたのかなと個人的には思っていた。
 でも、そうじゃなかったみたいだ。名木沢は彼女を、かなり大切に想っている。
 想うあまりに大事にしすぎて、いつも緊張してしまっているのだ。それはおそらく、彼女も同じ。お互いに、どうふるまったらいいかわからずに戸惑っているから。
 二人ともものすごく真面目なんだろう。彼女は見るからに、悪く言えば堅物なくらいに真面目そうな子だった。名木沢も、見た目の印象よりずっと、性格は一本気で真面目だ。同じサークルで半年も見ていればわかる。
 情報によれば二人は、小学校からずっと一緒の学校だったらしい。長く友達のような関係だった彼らが付き合うことになって、ある意味で一番驚いているのは昔からの知り合いたちだとも聞いた。
 知り合いで有る無しに関わらず、大方の共通意見は、二人が釣り合わないというもの。確かに、悪いけどぱっと見はそうだろう。学内指折りのモテ男子と、美人と言えるほどではない地味で堅そうな子。だけど二人はたぶん、よく似ている。真面目なあまりに相手に気を遣いすぎる、大事にしようとしすぎる不器用さが。
 そういう二人が、誕生日まで同じというのは、まさに「縁があった」と言えるんじゃないだろうか。あたしとかとは違って。
 「彼女、可愛い?」
 「えっ」
 あたしの、にやにや笑い付きの問いに、名木沢は一言発したきりまた固まる。顔を真っ赤にして。
 ああ、ベタボレってやつかこれは。じゃあもうしかたないな。
 一抹の未練を追いやりつつ、にやにやする顔をあえて直さずにいると、名木沢が額を押さえながら弱り切った声で言った。
 「……飯田さん……勘弁してください、マジで」
 「わかった、ごめん。真面目に話すから」
 もう少しからかいたい気持ちもなくはないけど、これ以上、純情くんをいじめるのは可哀想な気がしてきた。まあ「やっぱり未経験だろうな」と確信するのはあたしの自由だ。思うだけなんだから許してもらうことにする。
 ーー二人ともが真面目すぎるのは大変な気もするけど、うまくいけばいいと思う。名木沢がこれだけ好きな子なら、きっと魅力的な子に違いないし。完全に思い切るにはまだしばらくかかりそうだけど。
 「外の店がいいの? あんまり人に見られない所? だったら……あ、意外とうちの学生が行かない喫茶店、駅の近くにあったと思うけど。下見行ってみる?」
 思い出した店の、簡単な地図を手元の紙に描きながら、まだ少し、向けられるまっすぐな視線に気を張ってしまう自分を感じて、名木沢に気づかれない程度にため息をついた。


                                - 終 -
作品名:his pure heart 作家名:まつやちかこ