before a period of our time
大村くんの方から何も言わない限り、現状は変わらないだろう。まだしばらくは。
それ以上は、考えないようにしている。考えてもどうなるかわからないことだし、ある意味では、わかりたくなかったからーー早く終わらせた方がいい、と心の隅では思っている事実を。
逃げていると言われれば一言も返せない、ずるい態度を私は取っているに違いない。大村くんが何も言わないのをいいことに決断を全面的にゆだねている。
だけど、マイナスな思いを、私から口にするべきじゃないと思っているのも本当だ。だからなーちゃんにはこう答えるしかない。客観的に見ても長すぎると言える沈黙の後で。
「付き合ってるんだもの、いいに決まってるよ」
その返答に、今度はなーちゃんが黙った。答えをストレートに受け取ってもらうには、やっぱり無理のある間の長さだったみたいだ。
そもそも、あまり話していないとは言っても、高校時代の時間を一番多く過ごした友達はなーちゃんだから、私の違和感や不自然な付き合い方を、完全に隠し切れているわけではないだろう。
「なーちゃんこそ、どうなの。不安じゃないの」
1年ほど前から付き合っている彼氏と、なーちゃんも大学は別々になる。
「うーん、まあ違う大学っつっても近いし、あんま気にはしてないかな、あたしは」
さばさばとした口調で、あっさり言う。実になーちゃんらしい。
そこには、付き合う中で培った信頼もあるのだろう。うらやましい。……当然そうなるべきなのに、そうなれていない私は、今の付き合い方は、やっぱり不自然なんだろう。
「じゃあ、メールの準備するから、そろそろ切るけど」
となーちゃんが言う。
「うん、後でよろしく。また、卒業式でね」
「ねえ友美。卒業式の日、絶対話するべきだって」
誰と、なのかは言われなくてもわかる。
「今の状態ずるずる続けてたって、しょうがないでしょ。無駄な時間過ごすより、これからどうするのか、二人でちゃんと話をしないと」
「…………そうだね」
「あたしからはこれ以上言えないけど、とにかく、がんばってね」
ありがとう、と返して通話を終える。
……ずん、と気が重くなった。なーちゃんの言ったことはいちいちもっともで、反論の余地はない。
今からでも、好きになる努力をするべきなんだろうかーー嘘でも、大学が別になるのはさみしいと、大村くんに言うべきだろうか。
それはとても難しいことに思える。
だけど、責任を果たすつもりでいるのなら、しなければいけないことなのかもしれない。うまくできる自信は全然なくても。
とりあえずーー卒業式の日、なんとか大村くんと話す機会を作るところから始めるべきなんだろう。ソフト部の打ち上げが式の後にあるから、できれば式の始まる前に。
そうメールに書いて送ってみよう、と切ったばかりの携帯のロックをはずして、メール画面を立ち上げた。
ーーけれど、結果的に、式の日に大村くんと話すことはできなかった。そしてなーちゃん言うところの「無駄な時間」は、その後まだ半年も続くことになったのだった。
- 終 -
作品名:before a period of our time 作家名:まつやちかこ