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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅹ

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「え……っ」
 パンを食べかけたまま、美紗は動きを止めた。
「まだ正式に決まったわけじゃないけど、総務にいると人事の話もいろいろ聞こえてきちゃうのよね。まあ、日垣1佐は今の職に就いてもう二年以上経つし、そろそろ異動の時期には違いないんだけど」
 美紗は「でも……」と言いかけて口をつぐんだ。
 日垣とは、この前の週末に会ったばかりだった。いつもの店で、いつもの水割りとマティーニを一杯ずつ飲み、青いイルミネーションの海を抜けて、いつもの夜を過ごした。翌日の昼前に別れるまで、異動の話など何ひとつ出なかった。

「どちらに、行かれるんですか?」
「さあ、そこまでは……。でも、未来の空幕長と目される人だから、ご栄転には間違いないよね。次のトコで任期を終える頃には、将補さまにおなり遊ばすんじゃない? そしたら『日垣閣下』ってお呼びすることになるのかしら」
 ふざけて笑う吉谷の声が歪んで聞こえた。彼女の姿も、冬の弱い日差しが差し込む店内も、古ぼけたフィルム映像を見ているかのようにくすんで見える。美紗は、さっぱり味が分からなくなったパンを、無理やり紅茶で流し込んだ。