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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅹ

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第八章:アイスブレーカーの想い(5)-暮れゆく日①



 あの人が来ていた。聖夜の夜に、「いつもの店」に……。

 それが何を意味するのか分からないまま、仕事納めの日を迎えた。
 統合情報局第1部のフロアは、普段より人が少なく、静かだった。夏季休暇の時と同様、常に一定数以上の人員を確保するために、年末年始を挟んだ一か月の間に職員が交代で休みを取っているからだ。直轄チームでは、班長の松永とチーム最古参の高峰が、一足先に休暇に入っていた。
 一年で最後の業務日には、事務所内で納会が行われるのが慣例だった。緊急の事案が無ければ、昼前には部署ごとに簡単な酒の席が準備され、職員同士が一年の労をねぎらい合う。第1部のフロアでも、十一時半を回った頃から、缶ビールを開ける音が聞こえ始めた。
「日垣1佐、まだ戻って来ないっすねえ」
 七つの机の上に並んだ缶ビールとツマミを見ながら、片桐が恨めしそうな声を出した。
「そういえば、ずっといないなあ」
「情報局長の所に行ってくる、っておっしゃってたと思うんですけど……」
 顔を見合わせる美紗と小坂の横で、内局部員の宮崎はやれやれという様子で肩をすくめた。
「それじゃ、局長のトコで間違いなく捕まってる。あの人、酒好きの話好きだから。副局長も交じって三人でもう飲んでんのかも」
「我々もそろそろ始めましょうか。待ってると、うちの部長はかえって気にするタイプですからね」
 先任の佐伯の「英断」に、小坂と片桐は大人げない歓声を上げた。五人で使い捨てのコップにビールを注ぎ合い、乾杯の態勢を取る。
「じゃ、班長いないので、私が一言だけ」
「手短にお願いします」
「すでに無礼講モードっすね。小坂3佐」
「あら、無礼と無礼講は意味が違うのよ」
 茶々を入れ合う部下たちに、佐伯は咳払いをひとつすると、ただでさえひょろ長い体をピシリと伸ばした。
「この一年、皆、ご苦労さまでした」
 一同も、はっと佐伯のほうに注目し、背筋を伸ばす。