「サスペンス劇場 大空に蘇る」 第三話
「そんなことをすれば大変な騒ぎになります。敵にこの存在が知れては空襲などが早まるでしょう。静かにしていることが得策だと思えます。どれだけ強いゼロ戦でもたかが一機だけです。限度があると私は思います」
「たかが一機だけか・・・今の大本営には新しく機体を作る能力は無いというのが現実のようだ。望月の言う通りかもしれんな」
「中尉殿。私も思いは同じくする同志。この機体で役に立てることは惜しまぬつもりです。中島もそれは同じだと思います」
自分は違うと中島は言いたかったが、そういうムードではなかった。
やがて望月が懸念したように戦局は厳しさを増し、ついに特攻の命令が下るようになる。
指揮官の大島はその日望月を部屋に呼び語り明かした。
「なあ望月、この先日本はどうなるのか心細くなっているというのが本心だ。おまえは何もかもが解っているから落ち着けるのだろうなあ~」
「隊長、そのようなことではありませんよ。日本は立ち直ったからこそあの零戦は蘇ったのです。今の時代にわれわれが出来ることは一つではありませんか。最後の作戦としての特攻攻撃は賛成できるやり方ではありませんが、見事体当たりが成功すれば相当な破壊力になることは確かです」
「まさか望月貴様特攻をしようと考えているのか?」
「乗って来た機体は中島の命ですから、特攻をさせるわけにはゆきません。私はもう操縦することは叶わないので、死んでゆく若者に少しでも勇気と希望を与えることが出来たらと考えています」
「そうか、そうだな。おれもそのうち旅立つと思うが、望月と再び出会えたことはあの世まで忘れないぞ」
「ありがとうございます。最後の最後まで武運を祈っております」
日に日に飛び立って行くゼロ戦は帰還することは無かった。
最後に残った中島のゼロ戦の前で望月は自分が出来ることを放棄していることに恥ずかしさと情けなさを感じるようになっていた。
「中島さん、あなたはこの時代でも生きて行ける。この後日本がどうなるのかもわかっているから大丈夫だろう。私にこの機体をくれないか?」
「何を言っているのですか!帰らないといけませんよ。最後の望みじゃないですか」
「頼む・・・私に72年間の恥をそそがせてくれないか」
「72年間の恥?」
「そうだ、仲間が命を賭けて戦っていたのに、不時着したとはいえ捕虜になった自分にだ。日本軍人として最後を迎えたいと願っている」
望月の思いは強いと中島は見ていた。
*次回がサスペンス劇場シリーズの最終話となります。
作品名:「サスペンス劇場 大空に蘇る」 第三話 作家名:てっしゅう