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【終】残念王子と闇のマル

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新時代


「ちょっと待て!」

麻流が椅子から立ちあがり、理巧を鋭く睨む。

「私はもう、忍じゃない!」

意外な展開に戸惑う麻流は、カレンの反応が気になり、ふり返った。

視線が絡んだカレンは、意外にも冷静な表情をしていて、麻流の動揺が少し落ち着く。

「忍でありたくないのは、任務のせいですか?」

理巧が、無機質な瞳を麻流に向けた。

「姉上がおとぎの国で星一族を率いることで、おとぎの国の防衛力は格段にあがります。それは近隣諸国への脅威にもなり、今回のようなことは起きにくくなる。それに『忍の妃』だと、関係各国もそれぞれの情報を姉上からおとぎの国へ流される不安がなくなり、侵略の理由がなくなる。」

理巧の理路整然とした意見に、麻流は反論できず口を引き結んだ。

「この国の王配が星一族の頭領ということは、今までごく一部の者にしか知られていなかった。だから、我らも父上の後を継いで忍になる可能性があることから、出生しても将来が決まるまで公表されずにきた。」

理巧は再び広間の全員に視線を送ると、息を吸い込む。

「もう、国防にしかあたらない星一族は、闇に紛れる必要はない。だから、楓月兄上の王位継承と共に、我らも王族として公表させてもらう。」

思いがけない理巧の宣言に、大きなどよめきが起きた。

理巧の考えを予測していたのか、空と聖華、楓月と銀河はやわらかな表情を浮かべているけれど、それ以外の者たちは動揺を隠せない。

そんな中、カレンは冷静に状況を判断しようと、表情を変えず考えを巡らせていた。

その様子を観察していた空は、聖華と視線を交わし、小さく頷き合う。

「理巧…おまえの考えはわかった。けれど、おとぎの国はそれを受け入れるの?」

麻流は瞳を揺らしながら、カレンと理巧を交互に見た。

カレンは、空に視線を向ける。

すると、空がニヤリと笑って、カレンに一通の手紙を渡した。

「ダナンから。」

僅かに驚きながらカレンはそれを受け取ると、開封する。

「『おとぎの国は、星一族を歓迎し、近衛隊の身分を与える。そして、カレンが星一族を伴って帰国した後、すぐに譲位する。星一族を迎えての国政は、国王となったカレンに全て委ねる。カレンの妃も然り。花の都第一王女でありながら忍としても優秀なマルを王妃として迎えることができるのであれば、この上ない喜びであり、誇りに思う。カレンとマルなら、共に力を合わせておとぎの国を善きように導くと信じている。』…。」

カレンが声に出して読み上げると、麻流が両手で口元を覆い、その場に座り込んだ。

カレンは、再び空を見る。

空は珍しく、その切れ長の黒水晶の瞳を潤ませていた。

麻流が忍として行ってきたことは他国の王妃として受け入れられるものではない、と空は思い、カレンと無理矢理に別れさせた。

けれど、その結果、麻流は子を亡くし心を病み、おとぎの国とも戦争に発展しそうになる。

ねじまげた運命が、全てを狂わせたのだ。

だから麻流がカレンと再び結ばれた時、空は理巧と二人で密かにダナンに会いに行った。

ダナン自身は既に麻流のことを理解し受け入れていることはわかっていたのだけれど、改めて事実を明らかにし、非公式ではあるけれど書面にしたためてもらったのだ。

カレンは理巧と空を見つめ、忍親子もカレンを見つめ返す。

無言で交わされる視線を、その場の全員が見守った。

カレンは父王の手紙を丁寧に折り畳んで懐へしまうと、椅子から立ち上がる。

そして、深い紺色のマントを翻し、凛々しい表情で重鎮たちを見回した。

「私、おとぎの国第一王子カレンは」

カレンのいつになく低く威厳のある声色に、全員が息をのむ。

「花の都第一王女であり星一族頭領であるマルを正妃に迎え、王位継承後は花の都と同盟を結ぶことを宣言する。」

威風堂々としたカレンの宣言に、シンと静まり返った次の瞬間、広間は割れんばかりの拍手と歓声でふるえた。

「おめでとうございます!」

「ようやく、星一族も日の目を見る時がきましたな!」

「我が国には優秀な王女様と王子様がいるにも関わらず、公表できずにいて、とても残念だったのだ!」

「これで、他国と同盟を結びやすくなる!」

「楓月様の正妃も迎えやすくなるな!!」

「我が国があまりにも不透明すぎると言われて、今までいろんな姫君達に断られてきましたからな。」

意外な展開に、楓月の頬がひきつる。

「オンナに逃げられてきたのって、それだけが原因?」

からかうように、空が小さな声で訊ねた。

楓月はばつが悪そうに頬を染めると、視線を逸らす。

「体がもたない、といつも言われてますよね。」

理巧が無表情で答えると、楓月がキッと理巧を睨んだ。

真っ赤に染まった楓月の横顔に、空が声をあげて笑う。

「そりゃ俺の血のせいだな!」

珍しく表情豊かな空に、皆の注目が集まった。

「けどな、それは本当におまえのことを愛してねーな。」

言いながら、空は聖華の顔を覗きこむ。

「愛されてたら、どんだけでも受け入れてくれるから。」

艶やかな色気たっぷりの微笑を向けられた聖華は、頬をリンゴ色に染め、目を逸らした。

「結婚して30年近く経っても、まだその反応か。」

呆れたように銀河がため息混じりに呟くと、太陽が苦笑する。

「いつまでたっても、どんだけ子どもを授かっても、新婚さんだね~。僕の入る余地なし!」

広間の重鎮たちも、変わらない女王と王配を微笑ましく見つめた。

楓月はそんな両親を羨ましそうに見つめると、軽く息を吐いて椅子から立ち上がる。

「では、次に麻流とカレンの婚約披露パーティーについて取り決める。」