リードオフ・ガール 2
サードがボールを拾い上げた際、由紀の位置を確認すべきだったのだ、ボールをこぼした事でセカンドは間に合わないと判断したのは正しかったが、既に由紀はベース近くまで達していて、サードが送球動作に入るのを見るとセカンドベースを廻ったのだ。
ボールを受けたファーストは急いでサードへ送球しようとしたが、サードはまだベースに戻っていない、由紀と競走になったのではサードに勝ち目はなかった。
そして、3番の達也はきっちり外野フライを打ち上げ、サンダースは1点を先制した。
それはまさしくサンダースのペースだった。
由紀のヒットも普通ならサードへの平凡なゴロ、英樹の打球も強烈だがサードゴロだ、そして達也は外野フライ、本来なら三者凡退に切って取った筈なのに失点してしまう、ピッチャーに取ってはソロホームランを浴びるより堪える1点なのだ。
気落ちしたピッチャーは4番の幸彦にフォアボールを与えてしまい、5番・慎司に二塁打を浴びて2点目を失った。
ナックルはある意味偶然頼み、運任せの変化球、一発長打を浴びる可能性は否定できない、そのナックルを操る雅美には2点の先制は有難い。
2回の表、ウィングスの攻撃は4番から、守備のチームにあって一番の大物打ち、身体は大きく、バッターボックスに入る前の素振りはブンブンと音を立てる。
緊迫した局面だとホームランを警戒して、ナックルを投げる際は低めに、見逃せばボールになっても仕方がないという覚悟で投げざるを得ない。
しかし、ここでもしホームランを打たれたとしてもまだ1点リードしているという状況ならば、大胆に攻めることもできる、つまり真ん中から低めに落ちて行くナックルだ。
打つ方にも影響はある、『自分が打たなければ』と気負ったバッターにとって、最も効果的なのがナックルと言っても良いだろう、打ち気に逸ったバッターをからかうように揺れて落ちて行く、ひらひら舞う落ち葉と同じように、そっと手を出せば取れるのだが、勢い込んで掴み取ろうとすればすっと逃げる。
空振り三振となった4番はバットを叩きつけて悔しがった……サンダースバッテリーの思う壺である。
その後も小刻みに得点したサンダースは、雅美~良輝のリレーで危なげなくウィングスをシャットアウト、7-0で快勝し、6月に開催される県大会への切符を手にした。
d (>◇< ) アウト! _( -“-)_セーフ! (;-_-)v o(^-^ ) ヨヨイノヨイ!!
「ナイスゲームだった、よくやったぞ」
試合後のミーティング、光弘はまず満面の笑みで選手たちをねぎらった。
選手達の顔にも心からの笑みが浮かんでいる。
「去年敗れた相手だったが、寄せ付けなかったな、皆が課題を持って冬を越した結果だ、君たちを誇りに思うよ……だけど」
その先の言葉は選手たちにもわかっている。
「ここがゴールじゃない、県大会へのスタートなんだ、わかってるよな?」
光弘は選手たちを見回す、誰もが力強く頷いてくれた。
「よし、一丁景気づけだ! キャプテン、頼むぞ」
「はい!」
英樹がそう答えただけで円陣が出来始め、光弘も慌ててその輪の中に加わった。
「全国大会に、行くぞ!」
「「「「「「「「「「「「「「「おーっ!」」」」」」」」」」」」」」」」
(リードオフ・ガール2 終 リードオフ・ガール3に続く)
作品名:リードオフ・ガール 2 作家名:ST