⑩残念王子と闇のマル
継承
空は、脊椎を損傷していた。
「たぶん、頭部に噴石が当たって穴に落ちる時に折れたのでしょう。」
紗那の診断に、皆黙りこむ。
「それは、治るのか?」
ようやく銀河が訊ねると、紗那は小さく頷いた。
「脊椎だけの骨折なら、手術で治ることが殆どです。…でも、脊髄を損傷していたら…麻痺は治りません。」
空は、聖華と視線を交わす。
聖華は小さく頷くと、空の言葉を代弁した。
「手術を受けるわ。」
そして理巧に向き直り、聖華はやわらかく微笑む。
「理巧。これからは、あなたが頭領だそうよ。」
理巧は目を見開くと、空を見た。
不安そうな顔で首を左右にふる理巧に、空は優しい笑顔を向ける。
鼻にチューブが入っていて銀のマスクをつけれないため、空は喋ることができない。
ちらりと聖華を見て、再び代弁を頼んだ。
「理巧になら、星一族を安心して任せられる。」
理巧はぎゅっと眉根を寄せたけれど、小さく頷いて跪く。
「かしこまりました。」
そんな理巧に、空も頷いて答えた。
すると、聖華が楓月に向き直る。
「私も、あなたに王位を譲ります。」
突然の言葉に、楓月はキョトンとした。
そして一瞬間が空いて、室内に大きなどよめきが起こる。
「ええ!?楓月が国王!?」
「まぁ、楓月も意外としっかりはしているが…女王もまだ若くて健在なのになぜ…。」
「とりあえず~、結婚が先じゃないんですかぁ?」
「国王になんてなったら、ますます結婚が遠退きそう。」
「僕が素敵な女性を紹介するよ!」
「そんな素敵な女性がいるなら、まずはおまえが先に結婚しろ、太陽。」
「…っぐ…。」
「兄上が国王なんて…滅亡するな、我が国。」
「さすがに滅亡まではさせないでしょ、理巧。こいつがいくらピーマンでも。」
「カヅキ様は本当に思慮深い方ですから、素晴らしい国王になられると思います!」
「えー、元祖ピーマン王子に言われてもなぁ…。」
カレンのせっかくのフォローをバッサリと切り捨てた楓月に、皆の冷ややかな視線が集まる。
「ひどい…カレンの精一杯のフォローを無碍にしたあげくピーマンって貶めるなんて…マジでクズだなコイツ…。」
「同感です、姉上。」
「今のは、酷いわね。紗那。」
「ええ。国王になれる器じゃないわね~。」
「いっそカレンに国王になってもらうか。」
「それはいいですね、銀河兄上。」
口々に責められて、楓月は口をへの字に引き結ぶ。
「い…いえ、僕がピーマンなのは自他共に認めてますから!そもそもマルに呼ばれ始めましたし♡」
カレンが再びフォローに入ると、皆が一斉にカレンと麻流に注目した。
「そんなこと、言ってたのか?麻流。」
「…は、銀河叔父上…。」
「でもさ、なんでそんなに嬉しそうなの、カレン。」
「こういうのを、典型的なドMって言うんですよ、太陽叔父上。」
「あ~、ドMでピーマンが王位継承者なんてぇ…。」
「俺はドSでピーマンだから、まだマシだな!」
また楓月の余計な一言で、再び室内が静寂に包まれる。
「滅亡決定ですね。両国。」
理巧の言葉で、トドメが刺された。
「はは!」
こらえきれず、空が声をあげて笑う。
「!」
そのとたん、聖華とカレン以外の体に甘い痺れが走り、皆の頬が紅潮した。
「…。」
空が反省した表情で、目をふせる。
そんな空を微笑みながら軽く睨んだ聖華が、空気を変えるように咳払いをした。
「いずれにしても、空はもう忍としても王配としても務めを果たせないから、理巧はこのまま頭領に、楓月は3か月後に王位継承よ。」
その言葉に、今までじゃれあっていた皆も顔を引き締め、聖華に敬礼する。
「カレン。」
聖華に呼ばれたカレンは、即座に跪いた。
「…プロポーズ、してくれたのね。」
柔らかな笑顔で微笑む聖華の視線の先を辿ると、麻流の左手薬指の指輪にいきつく。
カレンは満面の笑顔で、頷いた。
「正式に、結婚を申し込みました。」
その瞬間、その場の皆の顔が輝く。
歓声にわく室内で、理巧は安堵の息を吐き、そんな理巧の横顔を空が包み込むような笑顔で見つめていた。
作品名:⑩残念王子と闇のマル 作家名:しずか