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吉葉ひろし
吉葉ひろし
novelistID. 32011
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美しさをとどめていてほしい

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桜が咲き始めた


 留美と別れた夜から、私は携帯の呼び出し音に敏感になった。呼び出し音が鳴るたびに留美からではないだろうかと心で思った。私の気持ちは留美への関心であふれていたのだろう。しかし、携帯のふたを開けるたびに私の期待は失望に変わるだけであった。画面に表示されるのは、登録済みの名ばかりであった。私は10桁の数字の表れることを待ち望んだ。3日が過ぎ、1週間が過ぎた。春の節句も過ぎ、私は、留美への期待感は何なのだろうかと考え始めた。娘のような感情以外に、私は彼女の美しさに惚れたように思えたが、明らかに私のどこかでそのことは否定していた。そして、4月に入った。
 夕食の時、妻が
「以前防犯カメラで調べた、3人の女子高生がいたでしょう。あの子たちの1人が、恐喝容疑で補導されたらしいわ」
「誰から聞いた話」
「店長が生徒から聞いたのよ。欠席しているから誰かもわかっているらしいわ」
 妻にとっては単なる話題の一つであったが、私は彼女でなければと思った。教師の時、生徒への接し方は平等を心掛けていた。明らかに私は留美を意識していた。忘れかけた留美の残像が蘇った。
 翌日、図書館に行き、1週間分の地方紙を調べた。それらしき記事を見つけた。
 k高校の女子高生、援助交際からか、48歳の医師を恐喝か?医師も児童買春の疑いで逮捕。
 もちろん女子高校生の実名はなく、誰かは判断できないことでの苛立ちを私は覚えた。
  帰り道、桜の大木が1本、5分ほど咲いていた。ソメイヨシノの見慣れた美しさに、私は見とれた。