吹雪だ! ライダー!
「陰陽道に降霊術なんてないもの」
「え? それ、本当?」
「陰陽師が言うんだから間違いないわ」
「がっかりだわぁ……妖怪を騙して使おうだなんて、こいつ、相当の食わせ物ね、凍らせちゃおうか?」
「うん、それ、いいかも……でもね、本格的な降霊はできないけど、もしかしたら旦那さんと話くらいはさせてあげられるかも……」
「マジ? それでもいいわよ、あの人なら子供たちがその後どうなったか位知ってるでしょうから」
「うん……そのかんざし、旦那さんから貰ったんじゃない?」
「あ、そうよ、良くわかったわね」
「だってお雪さん、基本白づくめなのにそのかんざしだけ真っ赤で目立つもん」
「変?」
「ううん、そんなことない、似合ってると思うわ、良いワンポイントになってる」
「アリガト、でも、このかんざしが何か?」
「旦那さんの想いが今も残っているなら、それを媒介にして一定時間、なんとか霊と交信できるようにするくらいは出来るかも……」
「いい、それでいい、今できるの?」
「ええ、旦那さんの想いの強さにもよるんだけど……」
「それなら大丈夫かも、ベタ惚れだったと思うわ、だって私って歳を取らないし」
「お雪さん美人だしね、やってみるわ……でも、その前に吹雪止ませてもらえる?」
「勿論よ、こんなのメンドくさいだけだもん……これでいい?」
「ありがとう、じゃ、そのかんざしをしっかり握っていて……」
ライダ~ \(\o-) →(-o/) / ヘンシ~ン!→\(〇¥〇)/ トォッ!
その頃、ライダーたちはマンモス男の桁違いのパワーに苦戦させられていたのだが、突然マンモス男がガクっと膝をついた。
「これは……」
「吹雪が止んだぞ」
「晴子ちゃんだわ、上手く説得してくれたのね」
「だとしたら……」
「おいおい、マンモス男、随分暴れてくれちゃったよなぁ」
「ギクッ……」
「ほらほらほら、あったかくなって来たぜ、お前さんにはちと暑過ぎるかもしれないけどなぁ」
「ギクッ、ギクッ……」
「君の鼻パンチは効いたよ、思いっきり新雪の中に頭から突っ込まされたな」
「腕のパワーも相当なもんだったよ、ライダーキックが跳ね返されたのは初めてだったな」
「キックも効いたぜ、前蹴りしかできないみたいだけどな、思い切り吹っ飛ばされたぜ」
「みんな、そろそろお返しする番じゃなくて?」
キラーン……ライダーチームの面々の目が光った。
「ギクッ、ギクッ、ギクッ……」
ライダ~ \(\o-) →(-o/) / ヘンシ~ン!→\(〇¥〇)/ トォッ!
お雪がしっかり握り締めたかんざしに晴子が呪をかけるとぼんやりと光り出し、そこから小さな声が聞こえてくる。
「……お雪……そこにいるんだな?……」
「あ、あんたなの? 巳之吉なのね?」
「……そうだ、二百年経ってるからもうどうでも良いって言われた巳之吉だ……」
「ごめ~ん、うそうそ、気にしないで」
「気にするなと言われてもなぁ……でもまあ良いか、子供の事が気になるのは母親として当然だからな……一郎は俺の跡を継いできこりになったよ……」
「そう、あの子、小さい頃から力が強かったし、お父さんっ子だったしねぇ……」
ライダ~ \(\o-) →(-o/) / ヘンシ~ン!→\(〇¥〇)/ トォッ!
「パオパオパオ、パオ~~~~~~!」
「こいつ、やけくそになってやがる」
「もうっ! ぐるぐる廻るばっかりなのに……」
「だがこの巨体に長い鼻だ、迂闊には近づけないぞ」
「死神に良い様に使われただけみたいだからな、少し可哀想な気もするが、こいつを止めるにはやっぱりあれしかないな……」
「灯油と火の玉のツープラトン攻撃ね?」
「そうだ、レディ9、フォローを頼む」
ライダーマンのウォーターガンから発射された灯油は、マンモス男の長い被毛に良く絡む。
「食らいなさい! 火遁の術!」
「パ、パオォォォォォォォ!」
瞬く間にマンモス男は炎上して巨大な火の柱と化した。
「悪く思わないでくれ……おや?」
「なんだろう、マンモスの中から大男が現われたぞ」
「これは、ひょっとして……」
「ああ、ビッグフットのようだな、不鮮明な画像でしか見たことがないが」
「本当に居たんだな……地球上にはまだまだ未知の生物もいるってことか」
「ライダーマン、こいつ、死んだのか?」
「いや、被毛は焼け焦げてしまったが分厚いんで皮膚は大丈夫だ、気絶してるだけだよ」
「なんだか実際にいるのを見ちまうとロマンがなくなるな」
「確かに……」
「そうだな、こいつは私の友人に託そう、生物学の研究をしている男さ、ロマンを解する男だからきっと世には出さないでおいてくれると思う」
ライダ~ \(\o-) →(-o/) / ヘンシ~ン!→\(〇¥〇)/ トォッ!
「……末っ子のたえは十五で嫁に行ったよ、可愛らしく育ってなぁ、庄屋の跡取りに見初められたんだ、大事にされて、子供も沢山産んで幸せに暮らしてたよ」
「良かった……みんなそれぞれ立派に育って幸せに暮らしたのね……それもあんたがしっかり育ててくれたおかげだわ、改めてお礼を言わせて……ありがとう」
「なんの、あたり前のことだ、俺の子供たちでもあるんだからな」
「後添えの女性(ひと)にもよろしく伝えてね……」
「後添え? 何のことだ?」
「だって、十人も子供がいたのよ……え? それとも、もしかして男手ひとつで?」
「俺の女房はお前しかいないよ」
「あんた、それほどまでに私を……あら? あんた、あんた? 聞こえないの?……あんた」
「ごめんなさい、あたしの力ではここまでが限度みたい……まだまだ積もるお話もあったでしょうけど……」
「ううん……充分よ、子供たちの行く末は全部聞けたし、終いには女として一番嬉しい言葉まで貰っちゃった……あの人ったら……私はその想いを胸に抱いて生きて行くわ……」
「山に……帰るのね?」
「ええ……もうショッカーなんかの口車に乗せられたりは……あら? 死神博士がいない、逃げたんだわ」
「しまった……気絶してると思って安心してた」
「う~ん、悔しい! 先に凍らせちゃえば良かったわね」
「ううん、あたしが霊をつなぎとめていられる時間は限られているもの……仕方がないわ」
「本当にありがとう……山に帰るわね……サヨナラ……」
雪女は吹雪を纏うようにして山へと飛んで行き、その後には満天の星空が広がっていた。
作品名:吹雪だ! ライダー! 作家名:ST