「サスペンス劇場 京都の恋」 第三話
「これからだから、まだそう決め付けてはいけないって思っているよ。それより、自分の身体のこと。この先女として、母としてやってゆけるのかが心配なの」
「お医者さんは何と言ってくれているの?よかったら聞かせて」
「うん、妊娠は可能だとだけ言われているの。痛みはそれほどないからいいんだけど、元の身体に戻れるかどうかは分からないっていう感じかな。正直に言って女としての自信を無くした。尚樹くんは新しい彼女見つけて結婚して」
「じゃあ何でさっき抱きついたの?」
「それは・・・懐かしかったから」
「じゃあ、何故電話で泣いていたの?」
「申し訳ないと思っていたから」
「ボクはね、美代子さんが幸せになるんやったら、付き合っている彼とうまくゆくように祈ろうと初めは思えてた。でも、京都で会って話して帰ってきたら、そんな気持ちもだんだんちゃうように変わってきてん。自分が付き合って幸せにしたいって、ほんまやで。大学に行って就職するまで5年かかるけど待ってて欲しいというつもりで東京へ来たんや」
「尚樹くん、ありがとう。あなたの未来を奪うことは出来ないけど、私に未来があるとしたらあなた以外には考えられないって思うようになった。それは本当よ。でもね、病気になって女として自信をなくしたら、そういう思いも辛いだけに変わった。解る?」
「まだ子供やから大人のことは知らんところがあるけど、一人の男として美代子さんを悲しませるようなことせえへんと約束する。東京の大学へ入るから、離れなくて良くなる。辛いことは乗り越えて行けばええと思うし、絶対に越えれるから少し前向きになろうよ」
「前向きにね・・・それが今の私には必要ね。本当に尚樹くんは私でいいのね?結婚とか考えてくれなくてもいいから、仲良く出来れば今の私は癒されるわ」
美代子は尚樹に全てを託そうと思ったのではない。何と言ってもまだ高校生だからだ。
東京の大学に入学しても4年間は学生だ。
卒業して就職出来てやっと一人前。その時は自分が30になる。
それでいいのか、待っていて裏切られたら、そんな思いが脳裏をかすめる。
尚樹が東京駅から新幹線に乗って帰って行ったあと、帰り道にある場所へ立ち寄った。
それは両親と兄のお墓である。
「お父さん、お母さん、お兄ちゃん・・・どうしたらいいの?信じていいのよね?
失うことは怖くないけど、悲しませることは嫌なの」
それは自分が経験した悲しみを尚樹に与えてはいけないという自責の念からだった。
作品名:「サスペンス劇場 京都の恋」 第三話 作家名:てっしゅう