⑨残念王子と闇のマル
通りすがりの侍女にマントを手渡す楓月に、カレンが悪戯な笑顔を向ける。
「僕は若いので問題ありませんが、楓月様のお年であの千針山…無理でしょ。」
「年寄り扱い!?」
楓月が憤慨すると、理巧が迷惑そうなため息を吐いた。
「介護する余裕はありません。迷惑です。」
「俺はまだ25だってば!ってかマジで迷惑そうにするな!傷つくだろ!?」
言い返しながらどんどん服を脱ぐ楓月を、3人は置いて行こうと歩みを早める。
「傷つく繊細さなんて、ないくせに。」
「廊下で服脱ぐのは、セクハラですよ。」
「腕も立たない、運動神経も人並みなくせに口だけ達者、な兄上が一緒なんて…考えただけで気が滅入ります。」
口々に背中を向けられたまま責められ、楓月は一瞬ぐっと言葉に詰まったけれど、負けじと言い返した。
「俺だって傷つくことある!あと、麻流にセクハラしまくってるカレンに言われたくねーし!裸になってるわけじゃねーし動きやすい服に着替えてるだけだし!それに…」
そこまで強気だった楓月だが、理巧を見ると目を逸らし眉を下げる。
「普段喋らないくせに、今一番言葉数が多かったとこがマジっぽくて…。気が滅入るとか…酷いよな。」
しゅんと肩を落とす楓月を無表情で見た理巧は、頭を下げて身を翻した。
「そうですか。では。」
「いやいやいやいや、ちょっと待て!そこは謝罪して撤回すべきとこだろ!!」
楓月に肩をつかまれた理巧は、心の底から迷惑そうな目付きで楓月を斜めに見る。
「…。」
そしてやはり何も言わず、そのまま廊下を歩いて行った。
そんな理巧を、麻流も無言で追いかける。
「…弟とは思えないくらい、忍だな…あいつ。」
忍然とした弟の迫力に気圧されて身をふるわせる楓月がおかしくて、カレンは笑った。
「おまえは可愛い弟になりそうだなぁ!」
楓月は隣を歩いてくれるカレンの肩をふざけた様子で強引に抱くと、その耳元で囁く。
「俺、探し物得意なんだ。」
きょとんとするカレンに、鼻と鼻がつきそうな距離で楓月はニヤリと笑った。
「きっと、一番に父上を見つけてみせるよ。」
この言葉で、ようやくカレンは楓月が同行したがった理由がわかり、尊敬の眼差しを向ける。
「お優しいですね、カヅキ様は。」
勘の良いカレンに、楓月は驚きながらも照れ臭そうに笑った。
楓月は最悪の事態を想定して、これ以上3人が辛いことを抱え込まなくて良いようにしたのだ。
自分が、辛い現実も母の嘆きも全て受け止めれば良い。
楓月のその覚悟に、カレンは改めて『次期国王』の姿勢を学ぶことができた。
作品名:⑨残念王子と闇のマル 作家名:しずか