「サスペンス物語 京都の恋」 第一話
昭和45年春、高校三年生になった尚樹は休日に趣味である神社仏閣巡りを楽しんでいた。
平日の人気のない東寺の境内で写真を撮っていると白いコートを羽織った女性に声を掛けられた。
「あのう・・・すみませんがシャッターを押して戴けませんか?」
そう言ってカメラを手渡された。
「ええよ、全身が入った方がええですか?」
「お願いします」
二回シャッターを切ってカメラを返した。
よく見ると目のクリっとした美人だ。高校生の尚樹には漂う女の色気が感じられた。
「どこから来てはりますの?」
「東京よ。あなたは高校生かしら?」
「はい、三年生です。お姉さんは?」
「お姉さんね、ハハハ~そうよね。幾つかしら・・・大学を出て仕事しているといった歳よ」
尚樹はちょっと計算した。23~24歳程度なんだろうと思えた。
「京都は良く来るんですか?」
「そうね・・・思い出があるから来るっていう感じかな」
「思い出・・・ひょっとして好きな人がいやはったんですか?」
「あら、そんなこと解るの?」
「何となくです。ここはそういう感傷に浸るには良い場所やって思いますから」
「ロマンチストなのね。私は美代子って言うの。名前教えて」
「尚樹です」
「なおき!どういう字を書くの?」
「尚樹」
「そう・・・」
「どうかしましたか?」
「ううん、違うの。同じ名前の人を知っているから、偶然なんだって思っただけ」
「ボクもです。美代子さんって・・・」
尚樹は言いかけてやめた。それは今の雰囲気を壊すと思ったからだ。
「あなたこそ言いかけてやめて、反則よ」
「反則ですか?母の名前なんです」
「ハハハ~そうだったの。私に遠慮したのね、でも素敵だわ、そういう気遣いって」
「言わへんほうが良かったなあ~」
「ありがとう。なんかホッとした。これでも男の人と一対一で話すのは久しぶりなの。仕事は女ばかりの職場なので一部の上司と会話するだけだし、一人暮らしをしているので会社と自宅の往復だしね。尚樹君は家族と一緒よね?」
「うん、両親と妹、それにおじいちゃんとおばあちゃんの6人暮らし」
「へえ~羨ましいわ。私にもそういう時があった。でも今は一人」
「そうなんや。実家へ帰ることは無いの?」
「うん、誰も居ないから・・・」
平日の人気のない東寺の境内で写真を撮っていると白いコートを羽織った女性に声を掛けられた。
「あのう・・・すみませんがシャッターを押して戴けませんか?」
そう言ってカメラを手渡された。
「ええよ、全身が入った方がええですか?」
「お願いします」
二回シャッターを切ってカメラを返した。
よく見ると目のクリっとした美人だ。高校生の尚樹には漂う女の色気が感じられた。
「どこから来てはりますの?」
「東京よ。あなたは高校生かしら?」
「はい、三年生です。お姉さんは?」
「お姉さんね、ハハハ~そうよね。幾つかしら・・・大学を出て仕事しているといった歳よ」
尚樹はちょっと計算した。23~24歳程度なんだろうと思えた。
「京都は良く来るんですか?」
「そうね・・・思い出があるから来るっていう感じかな」
「思い出・・・ひょっとして好きな人がいやはったんですか?」
「あら、そんなこと解るの?」
「何となくです。ここはそういう感傷に浸るには良い場所やって思いますから」
「ロマンチストなのね。私は美代子って言うの。名前教えて」
「尚樹です」
「なおき!どういう字を書くの?」
「尚樹」
「そう・・・」
「どうかしましたか?」
「ううん、違うの。同じ名前の人を知っているから、偶然なんだって思っただけ」
「ボクもです。美代子さんって・・・」
尚樹は言いかけてやめた。それは今の雰囲気を壊すと思ったからだ。
「あなたこそ言いかけてやめて、反則よ」
「反則ですか?母の名前なんです」
「ハハハ~そうだったの。私に遠慮したのね、でも素敵だわ、そういう気遣いって」
「言わへんほうが良かったなあ~」
「ありがとう。なんかホッとした。これでも男の人と一対一で話すのは久しぶりなの。仕事は女ばかりの職場なので一部の上司と会話するだけだし、一人暮らしをしているので会社と自宅の往復だしね。尚樹君は家族と一緒よね?」
「うん、両親と妹、それにおじいちゃんとおばあちゃんの6人暮らし」
「へえ~羨ましいわ。私にもそういう時があった。でも今は一人」
「そうなんや。実家へ帰ることは無いの?」
「うん、誰も居ないから・・・」
作品名:「サスペンス物語 京都の恋」 第一話 作家名:てっしゅう