春はまだ先 探偵奇談14
翌日、朝練後に練習試合のことを聞かされた瑞達は、大いに喜んだ。交流戦ともなれば、いろんな学校と試合ができる貴重な機会なのだ。部内の試合もそれなりに緊張感があるが、やはり他校との試合は違う意味で燃える。
「詳しいことは放課後に。チームの編成も近々発表するから。以上、解散」
伊吹は顧問との話し合いに忙しそうだ。団体戦に全員参加、これは一年にとってはいい機会だと思う。瑞も気合が入ってきた。
「なあ、大丈夫かな伊吹」
「思った。ちょい心配」
更衣室へ向かう途中、二年の先輩がひそひそと話しているのを聞き、瑞は足を止めた。
「え?なんですか?」
「一年は知らんのかあ。いや、七尾第一の弓道部ってさ、伊吹の元カノのいるとこなんだ」
なんですって?
夏の合宿で伊吹が暴露させられていたのを、瑞は聞いている。かつて付き合っていた子がいて、優しいだけじゃ物足りないとか言われて別れたっていう他校生…。弓道部員なのか。
「しかもその元カノ、今は弓道部主将と付き合ってるらしい」
「なんですかそれ…」
瑞は意識せず表情を歪めていた。それはたまたまの偶然なのだろうけど、なんだか嫌な感じではないか。
「あいつ未練はないだろうけど、気にするなって方が無理じゃねえか?」
「俺なら結構傷ついちゃうな」
「……」
元カノと、元カノの今カレのいる弓道部との交流戦…。
暴露させられていた夏合宿の夜。伊吹は多くを語らなかったけれど、大切にしていて大好きだったことは話を聴いて伺えた。内心ものすごく、今回の練習試合について悩んでいたりするかもしれない。大事な先輩の心情を思うと、瑞らは何だか落ち着かない。
「伊吹は億面にも出さないだろうけど…どうだろうな」
「あいつは主将だし割り切るだろうけど…」
瑞は振り返って伊吹を見る。顧問と何やら打ち合わせをしている横顔は、いつもの伊吹だ。
(…内心、どうなんだろ)
瑞には彼の真意は読めない。
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作品名:春はまだ先 探偵奇談14 作家名:ひなた眞白