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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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春はまだ先 探偵奇談14

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四人で立ち順を決めて入場する。伊吹の前に、七尾第一の主将がいた。
今はあの子、このひとのことが好きなのか。それをどうしても考えてしまって、わずかに感情が乱れる。しかし、彼の弦音で伊吹は自分を取り戻す。

(こんな情けない主将についてきてくれて感謝しかない)

打ち起こしのタイミングで、身体から余計な力が抜けていくのを感じた。いつもの部活で引いている通りの感覚だ。動揺してても、それを腹に入れて、受け入れる。宮川の言う通りだ。否定しなくていいのだ。

(俺は弱くて情けない)

だから努力する。少しでもましになろうとあがく。それでいい。

初矢はまっすぐに的に突き刺さった。静まり返る射場に、部員らのさざめきが広がるのがわかった。
応援席を見ると、愛すべき部員たちが祈るように見つめていた。瑞は両手をきつく組み、ものすごい形相で七尾の主将を見つめている。外せ外せ外せ外せ…。そんな念がダダ漏れである。

(ばかだなあ)

そのばかな連中に支えられている。ありがたい。
あのパーフェクトに見える瑞にも、課題があって、感情の乱れがあって、「穴があったら入りたい」なんて思いがあって、それを思うと人間らしさにホッとする。思わず笑みが零れていて、伊吹は慌てて表情を引き締める。いかん、真剣勝負の最中に。


また身体が軽くなる。疲労も感じない。
引き分けた弓が、なぜだか軽く感じる錯覚。すっと引ける。気持ちが、いつになく落ち着いているのがわかる。

(優しい気持ちっていうのかな、こういうの)

何も怖くないし誰も憎くない。振られて情けない自分に対しても、腹は立たない。すごく透き通った気持ちだ。