春はまだ先 探偵奇談14
「そーゆーの控えめにしとけよ。変な男に好かれたらどーすんだよ…ったくよ…」
「はあ?」
ブツブツ言いながら遠ざかっていく瑞を女子達一同は首を傾げて見送った。
「なに?あのヒト誰かのお父ちゃんだっけ?」
「さあ?」
あれが郁の好きなひと。クラスメイトであり、部活の仲間だ。それ以外にも彼とは、この学校や身近な人達のそばで起きる不可思議な現象を解決する時間を共有してきた。その中でいつの間にか恋に落ちていたのだが、この王子様ときたら鈍感なのか郁に興味がないのか、「一之瀬の好きなやつって誰?」などと面と向かって聴いてくるのだから困ったものである。
(恋愛対象に見られてないってことなんだよなあ)
友だちとしてなら、そばにいられる。ずっと。告白してこの関係が崩れてしまうことを恐れている郁は、思いを隠してそばにいることを選んだけれど。
(そろそろ限界かもしれない…)
好きすぎて、どうにも冷静でいられないのだ。以前、ポルターガイストの家の調査をした際、郁は自分のその思いにはっきりと気づいたのだ。このひとを絶対に失いたくない。もっと近くにいて、もっと触れてみたいと。自分でもコントロールできない感情が、いつ爆発するかわからない。そんな不安に、郁はどきどきしながら日々を過ごしていた。
.
作品名:春はまだ先 探偵奇談14 作家名:ひなた眞白