⑧残念王子と闇のマル
早速、忍たちが火を起こし、カレンをその前に座らせる。
「あとどのくらい登るんですか?」
麻流が手早く作ったスープを飲みながら、カレンが空へ訊ねた。
「ああ、あともうちょい。明日中には花の都に着く。」
言いながら、空が兵糧丸を口に含む。
「カレンも、どうぞ。」
麻流が懐から出した兵糧丸を渡すと、カレンが感激した様子で麻流を見た。
「…そんなに嬉しいなら、もうひとつどうぞ。」
麻流がカレンの手にもうひとつ乗せようとすると、カレンが頬を紅潮させながら満面の笑顔で麻流へにじり寄る。
「もう一回!」
首を傾げる麻流に、カレンが甘えるように言った。
「もう一回、呼んで♡」
カレンの可愛い様子に、麻流の頬も一気に赤くなる。
「…嫌です。」
目を逸らし逃げようとした麻流をカレンは素早くつかまえると、その赤い頬に口づけをした。
「照れちゃって、か~わいい♡」
「ちょっ…離してください!!」
抵抗する麻流をしっかりと抱き込んで頬擦りするカレンを斜めに見た空が、深いため息を吐く。
「俺も早く、聖華に会いてーな。」
「…そっちのため息ですか。」
冷ややかなツッコミを入れてきた理巧を空は斜めに見ると、妖艶な笑みを浮かべた。
「おまえもそのうちわかるって。」
言いながら、聖華のピアスを触る空の隣に、理巧は寝袋を用意する。
「おまえがどんな嫁さん連れてくんのか、楽しみだなー。」
からかうように言いながら、寝袋に入り目を閉じる空。
理巧は、火の番をしに空の元を離れた。
目の端ではカレンが麻流を抱きしめたまま寝袋に入ろうとしてひと悶着起きている。
それを忍たちが笑いながら、微笑ましく見ていた。
いつも通りの、変わらない光景。
その変わらない光景の中心にいるのは、いつでも空だ。
忍史上、最も美しく、最も強い空は、星一族にとっても聖華一族にとっても当たり前な存在。
そして、これからもそれはずっと変わらない…はずだった。
(つづく)
作品名:⑧残念王子と闇のマル 作家名:しずか