小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

⑦残念王子と闇のマル(修正あり2/4)

INDEX|5ページ/10ページ|

次のページ前のページ
 

理巧の声と同時に、空が現れた。

「思い通りにいかねぇな。」

言いながら、空はカレンの姿を見下ろす。

「…もっと喜ぶと思ったんですけど…。」

短く返す理巧を、空は感情の読めない表情で見つめた。

「おまえが考えるほど、人の心は単純じゃねぇってことだな。」

空は、全てお見通しだったのだ。

「…はい。」

理巧は、まだ自らが頭領の足元にも及ばないことがわかり、ただ深く頭を下げる。

「おまえ、麻流を拉致んの2回目だな。」

くくっと喉の奥で笑いながら、久しぶりに見るカレンを空は愛おしそうに見下ろした。

「麻流の隙、ずっと狙ってただろ?」

空は横目で理巧を見ると、理巧が小さく頷く。

そんな理巧にも、空は温かな微笑みを向けた。

けれど。

「…マル…ピアス、つけてくれてたんだ…。」

カレンの言葉に、やわらかかった空の表情が一気に冷たさを帯びる。

見ると、確かに麻流の左耳にカレンから贈られた金のピアスがつけられていた。

「…。」

空が、鋭い視線で理巧を射抜く。

「今だけです。」

咎めるようなその視線にも理巧は怯まず、淡々とした口調で返すと、空にピアスのケースを差し出した。

それは、麻流の部屋から密かに持ち出した物だ。

「最近、やたら城でおまえの気配感じると思ったわ。」

空は呆れたようにため息をつくと、それを受け取る。

上質なビロードが貼られたケースを開くと、そこにはおとぎの国の紋章が入った金のピアスと、エメラルドのピアスがひとつずつ入っていた。

音を立てないようケースを閉じると、空は理巧の手にそれを返す。

「理巧。」

空は、理巧の頭に手を乗せた。

理巧は、真っ直ぐに空の瞳を見つめ返す。

「…気持ちはわかるけどさ。」

訴えるような、想いの全てをぶつけてくるような理巧の視線を受け止めた空は、思わず苦笑した。

「だめ。」

とたんに理巧の瞳が、哀しみを帯びる。

「いや、そんな犬っころみたいな目されても…。」

空はふっと息を吐くと、あぐらをかいた。

「頭領の術は強くて…どうやっても解けません…。」

理巧は悔しげに唇を噛むと、空から視線をそらす。

頻繁に麻流の寝室に忍び込んで、理巧が術を解こうとしていたことに、空も気づいていた。

「ん。」

空は、首を傾げながらやわらかく微笑んだ。

「だろね。俺にも解けないし。」

「…!?」

珍しく、理巧が動揺する。

そんな理巧に、空はますます笑みを深めると、真っ直ぐな銀髪へ指を滑らせた。

「解けない術をかけた。」

言いながら、空は立ち上がる。

「だから無理やり解こうとすると、廃人になるよ。」

淡々と告げられた事実に、理巧は愕然とした。

忍術を学んだときにその術の存在は教えられていたけれど、実際に使える人がいたなんて、思いもしなかった。

そして、まさかその術者が自分の父親とは…。

あまりにも実力に差がありすぎて、その恐ろしさに理巧の肌が粟立つ。

「あまり長い時間、強い術を重ねておくのは危険。とりあえず、すぐ解いて返しな。」

言い終わらないうちに姿を消した空のいた場所を、理巧はしばらく見つめた。

微かに動揺で震える体を、一度軽く息を吐いて落ち着かせると、理巧はピアスケースを懐に入れる。

そして、天井裏からカレンのそばへとび降りた。

「カレン様、そろそろ。」

言いながら、カレンの腕の中の麻流を見ると、カレンの青いマントにすっぽりと覆われている。

「外、寒いでしょ。このまま連れて帰ってあげて。」

少し逡巡した後、理巧は小さく頷いた。

カレンの腕から麻流を抱き取ろうとすると、カレンの柔らかな金髪がふわりと鼻先を掠める。

見ると、カレンが腕の中の麻流の頬に、口づけを落としていた。

「あと、残り三分の一…全て終わったら迎えに行くからな…。」

言いながら、麻流の前髪を掻き分けて、額にも口づけを落とす。

「その時は、リク。」

名残押しそうに唇を離すと、カレンは理巧の腕に麻流を返した。

「見逃してね♡」

おどけたように言うけれど、その声色も瞳の力も、本気だと伝わるものだった。

理巧は、カレンを見つめながら、麻流を抱き上げる。

「両国の王より、高い報酬が用意できるなら。」

国を捨てるつもりのカレン。

世界を周り終え帰国し国を豊かにする方策を立てたら、リンちゃんを迎えに行く口実に、花の都へ戻る予定だ。

そして麻流を連れ出した後は、全てを捨てるつもりのようだ。

麻流を連れて逃げるならば、必ずおとぎの国からも花の都からも追っ手がかかる。

その追っ手を理巧が率いるのは、明白だ。

両国より高い報酬が出せれば、本当に理巧を味方にすることができるのか?

それとも、冗談?

どちらともつかない理巧の返事に、カレンは返答に困った。

「…わかりにくいなぁ…。」

ボソッと呟いたカレンに、理巧は密かに頬をゆるめる。

そしてカレンに頭を下げて姿を消そうとした時、カレンが麻流のお腹に手を置いた。

「やっぱ授かってなかったのかぁ。」

その瞬間、理巧がびくりと体を震わせる。

麻流を抱く手に力が入ったまま、微動だにしなくなった様子に、カレンが顔を上げた。

「!」

思わず、カレンが息をのむ。

なぜなら、理巧が涙を流していたからだ。

声をあげて笑ったり、声を荒げて怒ったり、涙を流して泣いたりといった感情は決して見せることのなかった理巧が、涙を流している。

カレンは理巧から麻流をそっと受け取ると、理巧の肩をおさえて、座るよう促した。

「リク…。」

ポツリと名前を呼ばれた理巧は、マスクを外して涙を拭う。

香りの都以来、久しぶりに見るその素顔に、カレンは再び息をのんだ。

改めて見ると、やはり空にそっくりだ。

きっと、空がもっと明るい銀髪で10代だったらこんな顔だったのだろう、と想像ができる。

「リク、どうした?」

小刻みにふるえる背中を、カレンが優しく撫でた。

「姉上は」

理巧は、麻流のお腹に手を乗せる。

「姉上は、カレン様のお子を、授かっていました。」