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てっしゅう
てっしゅう
novelistID. 29231
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「サスペンス劇場 身代わりの愛」 最終話

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ほのかは少し間をおいて、孝徳天皇をじっと見つめて理由を話した。

「天皇様、わたくしのような身分の者が畏れ多いとは考えましたが、言わせて頂きます。中大兄さまの寝所で間人さまがわたくしたちの制止を振り切って入られたときがありました。泣き声が聞こえるので失礼とは思いましたがお二人のお話を聞いてしまいました」

「それは朕と婚姻する前の事だろうな?」

「もちろんでございます」

「それでどうした?」

「はい、間人さまは妹ぎみという立場を恨みに思われていると思います。好きになった殿方が実の兄であり、それも天皇に近い方とあらばこれ以上は近づくことも許されないのではないかと考えておられました。わたくしも同じく中大兄さまを慕う女としてお気持ちは痛いほどわかりました。鎌足殿に命を捨てろと言われて従ったことはひとえに間人さまの思いを叶えて差し上げたいと願ったからです」

「そなたは自分の身代わりになっている女が、誰を好いているのか知っておるのだろう。自分を捨ててまであの女に尽くそうと考えたのはなぜじゃ?」

「私には身寄りがございません。采女になったことは皇子様のお手がつくことを願うだけです。自由な恋など考えられなかったのです。多くの采女の中でわたくしに声をかけてくださった中大兄さまは間人さまを好きだと申されました。心からお慕いする殿方が幸せになれることをお手伝いすることが本当のお心だと感じましてございます」

「何と・・・憐れな奴じゃのう。中大兄のやつめ、酷いことをしやがる。いずれ奴の行いは身内の不幸となって返ってゆくだろう。そなたは知らずともよいが、鎌足と組んで鞍作殿を謀で殺した事は許されることではない。此度の遷都も理不尽に尽きる。天皇を差し置いて遷都するなど前代未聞のことだ」

「天皇様、わたくしに自害をお許しくださいませ」

「なに?死ぬというのか。それは許さぬ。女としての幸せを見つけるがいい。咎は与えぬ。しばらくしたら出て行くがいい。当面の入用は持たせる」

「そのようなお情けは辛ろうございます」

「ならぬと言ったらならぬ。命令じゃ」

ほのかは渋々承知をして生まれ故郷の伊勢に帰っていった。
ほのかに化けた間人は飛鳥板蓋宮で人目につかないようにひっそりと暮らした。
もちろん頻繁に中大兄が通っていたことは承知の事実でもあった。

間人皇女は665年病に倒れ、母親の斉明天皇陵に合葬された。

皇后を失い失意の底にあった孝徳天皇はやがて病にかかりこの世を去った。
残された息子の有間皇子は中大兄と鎌足に工作された蘇我赤兄(そがのあかえ)にそそのかされ、兵を挙げたがすぐに追われ捕縛されて、皇族でありながら絞首刑(和歌山県海南市藤白付近)となった。