STEP ONE(雷華シリーズ)
「卓弥さぁ、今、バンドやってねぇの?」
バイト先のガソリンスタンドで休憩中にいきなり先輩がそんな風にいうから、一体何の事かと思った。返事するにも弁当食ってる最中だから口の中にメシが いっぱいで、むぐむぐっとやってお茶で流し込んで飲み下すのに十秒くらいはかかったと思う。
「何スか?」
「バンド。友達がヴォーカルやってるバンドがギター探しててさ、お前、高校生にしちゃあうまいし。今、特に組んでなかったら会うだけでもって思ったんだけど」
「やってないっつーか、学校ではやってますけど、外では全然。広田さんの友達っつーと、俺より年上ですか?」
「ああ、今、四人いてさ、三人俺とタメで一人だけ一つ下っつったかな」
広田さんって俺より三歳上だっけか。
ま、年齢だけじゃあ上手いかどうかわかんねーけど。
「四人?」
「ギターいるんだけどさ、何か、ツインでいきたいらしいよ。コピーとかじゃなくって、基本的にオリジナルが中心でやってるトコ。LIEって知ってるか?」
「オニキスとかでやってる?」
「そうそう」
そこなら俺も知ってた。オニキスってライヴハウスで何回か見た事あったから。なんか、髪が長くて優しげな感じのギターと、やたらでっけぇドラムと、なん か暴れ回っていた危なそうなベースが居た。
…ヴォーカル覚えてないなぁ。自分が演奏する人間で歌う方ではないから、見るのはどうしても楽器隊が中心になっ てしまう。演奏的に結構まとまっていた記憶がある。高校の軽音とは段違いの演奏力ってヤツ。
俺が今までやってきたバンドっつーと、ライヴハウスも出たりしたけど、どっちかって言うと学園祭ノリのあんまり旨くない感じなんだけど。…自分で言うの もなんだけど。
ギターで食っていきたいって俺は思っているけど、学校の軽音で一緒にやってる奴らってのはあんまりそんな気はなさそうだった。
「まあ、興味あるんだったらあんまり考えずに合わせるだけでもいいんじゃねぇ? 向こうもまあ、色々合わせるだけでもって感じだからさ」
一週間後、俺は楽器屋の二階にあるスタジオでLIEの面子と 顔合わせっつーか、音合わせっつーか、そんな事をやって、その三日後には加入が決まっていた。 俺よりも前に何人も合わせてみていたらしいのに、どうして俺が選ばれたのかは俺には分からなかった。
「んじゃ、改めて、ヴォーカルの渡部努、ベースの川瀬鷹秋、ドラムの田坂優吾、んで、俺、ギターの津島真矢。まあ、こういうメンバーになってるんで宜しく」
「佐高卓弥です。…津島さんがリーダーなんすか?」
「ああ、そうだよ。何かあったら俺に連絡くれる? …それから、これから一緒にバンドやるんだから、敬語と、さん、はやめようよ。俺は真矢でいいからさ。 大体、全員、下の名前で呼び捨てだから。あ、ベースの川瀬は秋、だな。こっちも呼び捨てにさせて貰うし、も、それで行こうよ」
…やっぱ、やたらと優しそうな人だな、この人。直接会うのは2回目だけど。 しっかし、三歳年上なんだぜ? さん、はいらないって言われてもなぁ…。言いにくいって。
…とか何とか言ってたって結 局おい、そんなの三ヶ月だってっ。そんな気をつかってたらやってらんねーよ、マジで。神経すり減るって。 いや、別に、人間関係の問題じゃなくって、人間関係ってのは俺にとっては結構いい方で、単純な話、演奏のレベル的に。高校生とはレベル違うわ、やっぱ り。練習多いし。 おもしれーんだけど、それだけじゃやってらんないっつーの? これがギターが俺一人っていうんならまた違ったのかも知れないけど、真矢がいるもんよ。俺がギター始めたのが中三で真矢がギター始めたの中二だってよ。 ギター歴六年と二年のツインギターだって。 …きっつぅ。 レベルの違いがはっきりし過ぎている。
「卓弥、今のとこ遅いよ。もうちょっと速く」
「ええーっ。もっと速くかよぉ。指千切れるって」
「千切れないって」
「くっそお。やりゃいいんでしょ、やりゃあ」
「当り前。文句言う前にやれっての。指なんて訓練次第で動くんだから。練習が足りないの、卓弥は」
真矢っつーのは基本的には優しいんだけど、言う事が結構キツイ事がある。まあ、遊びじゃないんだから当然なんだろうけど。 俺は多分、この三ヶ月で、信じられない程進歩したと思う。今までとは比べられないくらい練習しているから。
「まぁ、一回休憩でも入れようぜ。俺、喉渇いたよ」
努がそう言って、うわー、助かったっっつう感じ。
前に一回五時間ブッ続けで弾かされて、俺は盛大にキレた。
うるせぇーっつってそこいらにあったパイプ椅子を蹴り付けて。
…自慢には全くならんのだろうが、俺っていうのはまぁ、世間一般ではヤンキーって呼ばれる人間でもあって、集団でバイク乗ったりして、こっちにそんな気 がなくってもやたらと怯えられる事もある人間なんだけど、真矢って、こう、どっちかって言うと軟弱なイメージだったんだけど、そんな状態の俺を見ても『甘 えてんじゃないよ』で済ませたからなぁ。
それに関して、後で優吾にアイツは年下は結構みんな弟みたいに見る所あるから、多少やんちゃでも気にしないんじゃないの、と言われた。
そんなもんか?
椅子は真矢の方に蹴り飛ばしたんだけど、どっちかってーと努の方が怯えたみたいな所があって。
今回のも俺が切れる前に止めたと見た。
まあ、人間関係旨くいっている方がいいもんなぁ。
当然、俺だってそうだから、そういう意味で助かったって気分もありーのだし、ギター弾くのは好きだけど、練習とか訓練って物はどうしても苦手で、気が向 いた時に好きなだけ弾くってやり方で今までやって来たからさぁ…。 そういやあの時、リズム隊は関係ないって感じで勝手にべけべけ鳴らしてたな。何だかなー。
まぁ、だから俺みたいな短気な奴でも何とかなってんのかね。
バイト先のガソリンスタンドで休憩中にいきなり先輩がそんな風にいうから、一体何の事かと思った。返事するにも弁当食ってる最中だから口の中にメシが いっぱいで、むぐむぐっとやってお茶で流し込んで飲み下すのに十秒くらいはかかったと思う。
「何スか?」
「バンド。友達がヴォーカルやってるバンドがギター探しててさ、お前、高校生にしちゃあうまいし。今、特に組んでなかったら会うだけでもって思ったんだけど」
「やってないっつーか、学校ではやってますけど、外では全然。広田さんの友達っつーと、俺より年上ですか?」
「ああ、今、四人いてさ、三人俺とタメで一人だけ一つ下っつったかな」
広田さんって俺より三歳上だっけか。
ま、年齢だけじゃあ上手いかどうかわかんねーけど。
「四人?」
「ギターいるんだけどさ、何か、ツインでいきたいらしいよ。コピーとかじゃなくって、基本的にオリジナルが中心でやってるトコ。LIEって知ってるか?」
「オニキスとかでやってる?」
「そうそう」
そこなら俺も知ってた。オニキスってライヴハウスで何回か見た事あったから。なんか、髪が長くて優しげな感じのギターと、やたらでっけぇドラムと、なん か暴れ回っていた危なそうなベースが居た。
…ヴォーカル覚えてないなぁ。自分が演奏する人間で歌う方ではないから、見るのはどうしても楽器隊が中心になっ てしまう。演奏的に結構まとまっていた記憶がある。高校の軽音とは段違いの演奏力ってヤツ。
俺が今までやってきたバンドっつーと、ライヴハウスも出たりしたけど、どっちかって言うと学園祭ノリのあんまり旨くない感じなんだけど。…自分で言うの もなんだけど。
ギターで食っていきたいって俺は思っているけど、学校の軽音で一緒にやってる奴らってのはあんまりそんな気はなさそうだった。
「まあ、興味あるんだったらあんまり考えずに合わせるだけでもいいんじゃねぇ? 向こうもまあ、色々合わせるだけでもって感じだからさ」
一週間後、俺は楽器屋の二階にあるスタジオでLIEの面子と 顔合わせっつーか、音合わせっつーか、そんな事をやって、その三日後には加入が決まっていた。 俺よりも前に何人も合わせてみていたらしいのに、どうして俺が選ばれたのかは俺には分からなかった。
「んじゃ、改めて、ヴォーカルの渡部努、ベースの川瀬鷹秋、ドラムの田坂優吾、んで、俺、ギターの津島真矢。まあ、こういうメンバーになってるんで宜しく」
「佐高卓弥です。…津島さんがリーダーなんすか?」
「ああ、そうだよ。何かあったら俺に連絡くれる? …それから、これから一緒にバンドやるんだから、敬語と、さん、はやめようよ。俺は真矢でいいからさ。 大体、全員、下の名前で呼び捨てだから。あ、ベースの川瀬は秋、だな。こっちも呼び捨てにさせて貰うし、も、それで行こうよ」
…やっぱ、やたらと優しそうな人だな、この人。直接会うのは2回目だけど。 しっかし、三歳年上なんだぜ? さん、はいらないって言われてもなぁ…。言いにくいって。
…とか何とか言ってたって結 局おい、そんなの三ヶ月だってっ。そんな気をつかってたらやってらんねーよ、マジで。神経すり減るって。 いや、別に、人間関係の問題じゃなくって、人間関係ってのは俺にとっては結構いい方で、単純な話、演奏のレベル的に。高校生とはレベル違うわ、やっぱ り。練習多いし。 おもしれーんだけど、それだけじゃやってらんないっつーの? これがギターが俺一人っていうんならまた違ったのかも知れないけど、真矢がいるもんよ。俺がギター始めたのが中三で真矢がギター始めたの中二だってよ。 ギター歴六年と二年のツインギターだって。 …きっつぅ。 レベルの違いがはっきりし過ぎている。
「卓弥、今のとこ遅いよ。もうちょっと速く」
「ええーっ。もっと速くかよぉ。指千切れるって」
「千切れないって」
「くっそお。やりゃいいんでしょ、やりゃあ」
「当り前。文句言う前にやれっての。指なんて訓練次第で動くんだから。練習が足りないの、卓弥は」
真矢っつーのは基本的には優しいんだけど、言う事が結構キツイ事がある。まあ、遊びじゃないんだから当然なんだろうけど。 俺は多分、この三ヶ月で、信じられない程進歩したと思う。今までとは比べられないくらい練習しているから。
「まぁ、一回休憩でも入れようぜ。俺、喉渇いたよ」
努がそう言って、うわー、助かったっっつう感じ。
前に一回五時間ブッ続けで弾かされて、俺は盛大にキレた。
うるせぇーっつってそこいらにあったパイプ椅子を蹴り付けて。
…自慢には全くならんのだろうが、俺っていうのはまぁ、世間一般ではヤンキーって呼ばれる人間でもあって、集団でバイク乗ったりして、こっちにそんな気 がなくってもやたらと怯えられる事もある人間なんだけど、真矢って、こう、どっちかって言うと軟弱なイメージだったんだけど、そんな状態の俺を見ても『甘 えてんじゃないよ』で済ませたからなぁ。
それに関して、後で優吾にアイツは年下は結構みんな弟みたいに見る所あるから、多少やんちゃでも気にしないんじゃないの、と言われた。
そんなもんか?
椅子は真矢の方に蹴り飛ばしたんだけど、どっちかってーと努の方が怯えたみたいな所があって。
今回のも俺が切れる前に止めたと見た。
まあ、人間関係旨くいっている方がいいもんなぁ。
当然、俺だってそうだから、そういう意味で助かったって気分もありーのだし、ギター弾くのは好きだけど、練習とか訓練って物はどうしても苦手で、気が向 いた時に好きなだけ弾くってやり方で今までやって来たからさぁ…。 そういやあの時、リズム隊は関係ないって感じで勝手にべけべけ鳴らしてたな。何だかなー。
まぁ、だから俺みたいな短気な奴でも何とかなってんのかね。
作品名:STEP ONE(雷華シリーズ) 作家名:樹内みのる