小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

ライブとリサイタル

INDEX|2ページ/5ページ|

次のページ前のページ
 

 渋谷のライブハウスに着いたとき、そこにはもう人が群がっていた。盛んにSNSを駆使して情報をキャッチしようとする若者、やかましいくらいの勢いで興奮する中年のおっさん、彼らは皆、高エネルギー状態にあるように見えた。自分も例外ではなく、もう間もなく開演するそれに期待を膨らませていた。
 ライブハウスの入り口に近いところに、より高エネルギーな人が集まっていて、その周辺に比較的低いエネルギー状態にある人がいた印象がある。俺は比較的低エネルギーな集団に属していた。いずれにせよその領域はかなりエネルギーの高い状態にあった。
 試しにやかましい中年グループのそばに近寄って見ると、想像以上にエネルギーが大きく、居心地が悪くなったので離れた。そして再び低エネルギー状態のもとの場所に戻って中年を見ると、なんとなく気分が高まってきた。もちろん中年だけではなく若者も燃えていた。熱気を帯びた空間が開演前から形成されていた。
そして開演。
 最初に主催者の挨拶があった。そのライブは昼と夜の部に分かれていて、俺は夜の部に行ったのだが、主催者によると昼の部で騒動があったらしかった。彼はライブの際に発生する観客の熱気を熟知した専門家だが、ステージに影響がでるようなことは絶対、絶対にしないでください!!と強く懇願していた。観客同士のコンフリクトなら謝り合って済むが、ステージに影響を及ぼすとそのライブ全体の印象にかかわる問題になり、他の観客の後味を悪くするから、そこだけは守るように必死に伝えていた。それに呼応するように観客は拍手やどす黒い声を上げて了承したと言わんばかりだった。
 そしてついにアーティストが登場。会場は一気にヒートアップした。俺も自分のテンションが一気に上がるのを感じ、周りはその何倍もテンションが上がっていた。超高エネルギー状態と言おうか。開演前の外とは明らかに次元の違う盛り上がりだった。しかし、なんとか他の観客の身振り手振りを真似てついていけたので、これは面白いと思い始めていた。
 それは、最初の一曲目の話だ。曲自体は少し落ち着いたものであった。
次の曲は激しめの曲に変わった。すると途端に後ろの方にいた観客が前にダッシュした!それは予期していなかったことで焦り、同時についていけなくなった。
幸いにも二階席が用意されていて、そこは落ち着いてライブを楽しみたい人専用のスペースだったため、そこに避難することにした。
分厚い扉を静かに開けて、分厚い壁に挟まれた階段を上がっている途中にも、強烈なサウンドとそれに対応する灼熱が扉や壁を通り抜けて俺に降り注いでいた。その少し抑えられた高エネルギーは、再び俺のテンションを上げた。
 二階席にたどり着くと、そこは既に観客であふれかえっていた。確かに静かではあったが、ほとんどの観客はアーティストに釘付けになっており、高エネルギー状態であることに変わりはなかった。あまりにスペースがなく、俺は3段くらいの階段の2段目に右足をギリギリのせ、左足は宙に浮かせて、壁にもたれかかった状態でアーティストに釘付けになっていた。
 音楽自体は事前に何度か聴いていたが、実際に目の前にアーティストがいると興奮する。それは普段の大きな箱でのライブでもそうなのだが、今回は一つ違うところがあった。
 一階の観客の様子である。まるで流体のようだった。ステージという高い崖に激しくぶつかる波、その後方で高速回転する渦、それらがはげしく音エネルギーを放出していた。まるで彼らがアーティストの一部かのように思える程の熱気であった。後ろのほうや壁際には一定数の比較的低エネルギーの観客もいた。しかし曲が変わると、後ろの方にいる観客の中から、突然高い崖(ステージ)に向かってぶつかってゆく者もいた。光はステージを照らす証明のほかにサイリウムなどの発行体を振りまくる観客がいて、ときにステージのものより強い光も出現した。感情という名のエネルギーが爆発的に放出され、そして生み出され、ライブハウスという一定の体積を持つ空間が、彼らによって膨張させられていた。しかしエネルギーの密度は減るどころか増加していった。それは二階席の観客もどんどん高エネルギー状態になっていったからではないだろうか(少なくとも俺はそうだった。俺は自分の中で感情が大量に発生し、それを放出しない分「内なる」テンションは上がっていく一方だった)。
 開演中、次のライブが来年5月にあると告知された。次は最初から二階席に向かい、条件を整えて更なる内部エネルギーの増加(感情のふくらみ)を狙いたい。一階席は……無理っぽい。

 終演後、物販の列ができていた。毎回記念に物品を購入するのだが、今回のような小さな箱でも列はちゃんと形成されていた。まあ、もし列がなかったらカオスな状態になり、ライブの後味が悪くなることはすぐ予想できる。
 そして毎回、終演してから買うことに決めている。というのも、物品購入は俺にとって余韻を楽しむ方法の一つだからだ。記憶にとどめたいというのもある。しかし大抵、本当に欲しいと思っているグッズは完売している。
 それでもいい。俺は完売していなかったCDと不織布バッグを買って、満足して帰った。
作品名:ライブとリサイタル 作家名:島尾