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選び取り

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 次に、このボタンを押していく順番についてご説明したいと思います。実は、このボタンを押す順番を、先年あなた方夫婦の間にお生まれになった娘さん、冥菜ちゃんに決めていただこうと考えております。しかし、冥菜ちゃんは先日初めての誕生日を迎えたばかりで、まだ言葉も覚束ない状態です。そのため今回、私の故郷で子供が一歳になったときに行う風習を少々アレンジして、ボタンを押す順番の決定をしようと考えております。
 まず、床にモニターを埋め込ませていただきました。うつ伏せになっている皆さんにも見えるような角度で設置しております。皆さん、ちゃんと見えておりますでしょうか? モニターには現在、私の協力者に抱きかかえられている状態の冥菜ちゃんが写っていると思います。ご安心下さい。冥菜ちゃんに危害を加えようというわけではありません。ボタンを押す順番を決めるその時まで、動くのを待っていただいているだけです。順番を決める時が来たら、協力者に手を離すよう指示をいたします。それからは冥菜ちゃんに、思う存分覚えたてのハイハイをしていただきたいと思います。
 えー、冥菜ちゃんがいらっしゃる部屋に、三つのアイテムをご用意しております。筆、そろばん、財布の三つです。この三つのアイテムのうち、赤ちゃんがどれを手にしたかで将来を占う風習がございます。「選び取り」という風習だそうです。確か、筆を取ると文筆業、そろばんならば商売人、財布を取れば裕福になる、そんな塩梅だったかと記憶しております。どうも偏りがあるような気がいたしますが、なにぶん昔の風習ですのでご容赦ください。さて、今回の「選び取り」は、冥菜ちゃんの将来を占うのが主目的ではありません。先ほど申しましたように、ボタンを押す順番を決める為に、この「選び取り」を行います。ボタンが三つ、アイテムも三つ。もうお分かりだと思います。つまり、冥菜ちゃんが「選び取り」でどのアイテムを取ったかで、誰のボタンが押されるのかが決まる、ということです。

 では、冥菜ちゃんがどのアイテムを取ったら誰のボタンが押されるのか、これをご説明したいと思います。
 まず筆です。筆と言えば学問の象徴。と、言うわけで現在大学に在学中の息子さん、優一さんのボタンが押されることにいたしましょう。
 次にそろばん。ここはやはり一家の大黒柱である、主人の昭夫さんのボタンがよろしいかと存じます。実際、松次郎さんの後を継いで会社の経営をなされているようですから、多額のお金を稼いでいる立派な商売人と言って差し支えないでしょう。
 最後の財布ですが、消去法で奥さんの春美さんになります。遠野家でも、一家の財政を一手に引き受けていらっしゃる立場ではないかと思います。そう考えれば、消去法ではありますが、案外相応しいのではないかと思います。

 ちなみに、実際の「選び取り」では、財布ではなくお金を用いることが多いようです。ですが、小銭を用意して冥菜ちゃんが飲み込んだりしてしまうと危険です。紙幣も、よだれ等でべとべとになると見栄えが悪くなります。そのため、今回はお金ではなく財布を用いたいと思います。中身は空ですが。実際に「選び取り」で財布を用いる地域もあるようですし、意味合いとしてもそれ程変わらないと思います。その点、ご理解のほど宜しくお願いいたします。

 さて、次は復讐のルールについて、さらに詳細に説明を行っていきたいと思います。

 本来「選び取り」は、一つのアイテムを手にしたらそこで終わりです。ですが、今回は全てのアイテムを冥菜ちゃんが手にするまで続けたいと思います。流れとしましては、まず一つ目のアイテムを手にしたら、最初のボタンが押されます。次は、残り二つのアイテムで行い、再びアイテムを手にしたら、二つめのボタンが押されます。最後はアイテムを一つ残して、冥菜ちゃんがそのアイテムを手に取るまで行い、取得した時点で最後のボタンが押されます。
 注意すべき点は、二個目のアイテムを手にした時点で、ボタンを押す順番自体は確定してしまいますが、その状況でもすぐにボタンは押されないということです。冥菜ちゃんがアイテムを手にする、それがあくまでボタンのトリガーです。


作品名:選び取り 作家名:六色塔