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選び取り

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 どうも皆様。こんにちは。

 えー、これからですね。皆様に復讐をさせていただこう、というわけなんですけれども。その復讐につきまして、いくつか私の方から前もってご説明させていただきたいと思います。申し遅れました。私、今回復讐を行わせていただきます、城山慎二と申します。よろしくお願いいたします。


 まず、なぜ私が皆様への復讐を思い立ったか、いわゆる復讐の動機について、簡単にですがお話をしていきたいと思います。あ、昭夫さん。私の苗字でピンと来ていらっしゃるようですね。はい、おそらくご想像の通りだと思います。

 私の祖父は、城山完二といいます。完二は若い頃非常に貧しく、眠る時間を削りながら新聞配達や工場の夜勤などをし、その傍らで学校に通う、いわゆる苦学をしておりました。そんな完二は、先の戦争が終わった後、貧しい中貯めたなけなしのお金で小さな会社を起ち上げます。会社は戦後の特需と祖父の手腕によって急成長を遂げ、東京で最初のオリンピックが行われた頃には日本有数の企業となっておりました。
 しかし、会社の代表として順風満帆な人生を歩んでいた完二に、一人の男が忍び寄ります。その男は、同郷のよしみというだけで無理矢理顧問の職に納まり、会社の金を使い放題使っていったそうです。その使い込みの激しさは、順調だった会社の経営が傾きかねない程だったと聞いています。事態を憂いた完二は、男を自宅に呼び出し、使い込みを止めるか、今すぐ会社を出て行くかの二者択一を迫りました。しかし、男はその仕打ちに憤りました。そして激昂のあまり、完二に殴る蹴るの暴行を加えて、柱に縛り上げたのです。それだけに飽き足らず、男は縛られた完二の眼前で完二の妻を暴力でもって辱めました。欲望の限りを尽くした男は、妻をも柱に縛り上げ、火を放って立ち去りました。
 後日、男は会社の取締役会議で「完二は経営に行き詰り、妻と心中した」「心中間際に完二に呼びだされ、私が後継者に指名された」と話をでっち上げ、まんまと会社を手に入れたのです。

 もうおわかりだと思います。その男が、ここにいる遠野昭夫さんのお父さん、遠野松次郎さんという方です。
 自宅に火を放たれた後、完二だけは辛くも脱出して一命を取り留めました。しかし、大火傷を負い、愛する妻に先立たれ、財産もほとんど失った状態で、寝たきりの生活を余儀なくされてしまったのです。完二は臨終の際、息子と孫、即ち私の父と私に「何代かかってもいい。必ず遠野の家を根絶やしにしてくれ」と何度も何度もうわごとのように繰り返しながら、亡くなりました。

 こういった経緯で、今回遠野家の皆さんにお集まりいただいたわけです。はい。今、奥さんの春美さんがおっしゃったとおり、皆様は一切悪い事はしておりません。その点は、私も重々承知しております。この話を聞く限りでは、悪いのはせいぜい松次郎さんぐらいではないかと思います。ただしこの話は、私の祖父という被害者の立場から聞いた話です。どこまで本当かわかりません。松次郎さんのほうにも、何かしら言い分があったかもしれませんし、もしかしたら、のっぴきならない事情があったのかも知れません。ですが、その事情を伺おうにも、松次郎さんは既に亡くなられていらっしゃいますよね。松次郎さんご自身もあまり公にはしたくなかったでしょうから、皆さんもおそらく込み入ったお話は聴いていらっしゃらないのではないでしょうか。なので、いまさら蒸し返すのもどうだろうか、そんな思いもないわけではありません。しかしながら、私としても先ほどお話いたしましたように、祖父から「どうしても」と遺言のような形で頼まれておりまして。まことに申し訳ありませんが、皆さんに復讐をさせていただこうと思っている次第です。何卒ご了承くださいますよう、宜しくお願い致します。

 それでは、次に復讐の方法について、ご説明させていただきたいと思います。今回の復讐の対象者である、お父さんの昭夫さん、奥さんの春美さん、息子さんの優一さん。お三方とも、現在うつ伏せで拘束されている状態となっております。そのため、皆さんには見えないと思いますが、皆さんの後頭部のはるか頭上には鋭い刃が下向きに設置されております。その刃は、皆さんへ向かって落ちるようになっており、落ちたときは皆さんの頚部にちょうど当たる仕組みになっております。この説明で、察しの良い方はおおよそご理解されるのではないでしょうか。つまり、皆さんはフランス革命のころから用いられている、あの有名な処刑装置に固定されている状況です。そして、皆さんの頭上の刃を落下させるボタンは、三つとも私が所持しております。即ち、私がボタンを押して刃を落とす事で、どなたかの頭が落ち、そしてその方の命も落ちる、とそういう寸法になっているわけでございます。


作品名:選び取り 作家名:六色塔