「月ヶ瀬」 第二十一話
みすぼらしい浮浪者のような姿で木津市内の派出所へ高木が自首してきた。
名前を聞かれ、笠置町の高木健治だと答えた。手配中の人物だったので緊急逮捕となり奈良県警に護送された。
佐藤が取り調べに当たる。
「高木やな。なんで自首したんや?他の二人はどないしたんや」
「刑事さん、お腹空いてるねん。何か食べさせてもらわれへんか?」
「食べてへんのか、しゃあないなあ。おい、どんぶりかなんか注文したり」
あっという間に食べ終えると涙を流して机に顔を伏せた。
「高木、観念したんやな。全部喋りや」
「清一さんと会田は死んだ」
「何言うてんねん。殺したんやろ?ちゃうのんか」
「殺してない。清一さんは会田を罵って消えろって言うたんや。そうしたら、弁護士を殺したこと警察に言うでって言い返して、金出せって言ったんや。ポケットからお金出すようなふりして包丁出して刺しよった。そのあとでおれに埋めるように指示したんや。奥さんの由美さんは会田に埋めさせた。せめてもの見せしめやったやろう」
「ほんまか、嘘言うたら怒るで!」
「ここまで来て自首してんのに嘘ついてどうするんですか」
「よっしゃ、清一はどないしたんや?」
「二人で居場所かえながら、お金はあったから時々は木津市内で泊まったり、風呂に入ったりしてたけど、一月ぐらい前から急に大勢の捜査員が居るようになってもう逃げられへんって言うて・・・昨日首つりよった」
「なんやて!首吊ったってどこでや?」
「駅のトイレの中や・・・夜中に入って中からカギ閉めているから分からへんのかも知れん」
「なんで駅のトイレにしたんや。どこの駅や?」
「分からへん。JRの木津駅や。朝確認して自首したから間違いない」
高木の証言は現実のものとなっていた。会田の遺体も証言場所から発見された。
あっけない幕切れに、佐藤の緊張感が外れた。
これだけ捜査して木津市内に潜んでいた高木と清一らを発見できなかったことが悔しかったのだろう。
*次回が最終回となります。
作品名:「月ヶ瀬」 第二十一話 作家名:てっしゅう