季節ものショートショート
ねこの記憶は星夜にふる
「こんにちわ、おハルさん」
声をかけたのは一人の女の子。
高校のものらしき学生服を着て、片手にはカバンを下げていた。
後ろには、学ラン姿の男の子を連れている。
線の細い、いうなれば文学少年がいた。
私はお婆さんの膝を二度ほど叩き、来客を教える。
「おや、どうかしたのかい?」
細い目を一層細くし、しわの増えた顔を綻ばせる。
私は膝の上に座ったまま、目を合わせ、その視線を二人組の方へと動かした。
ひらひら。
女の子は手を振って存在をアピール。
「……あらまぁ、秋子ちゃんじゃないかい。どうしたんだい?」
「ちょこっと前を通ったから、お披露目」
頬を染め、はにかんでみせる。
おハルさんがわかっていないようなので、私が再び視線を送り、男の子の方に気づかせる。
ちら、と見て理解したようで、
「まぁ、秋子ちゃん、後ろの男の子は?」
にこにこした表情で尋ねる。
「ボーイフレンド」
それだけ言い、顔を真っ赤にする。
「あらあら、おめでとう、秋子ちゃん。夏ちゃんも来てるから、お上がり?」
「え、夏姉さんが帰ってるの?」
私が頷いて見せるが、気付かれない。
「そう。昨日から遊びに来てるの」
おハルさんがしゃべっているうちに、
「お祖母ちゃん、どうかしたの?」
白いワンピースの女性が、家の中から顔をのぞかせた。
件の、夏海さんである。
ちなみに今年の年賀状には、『結婚しました』と書いてあった。
お相手は、入院生活を支えてくれた人らしい。
「夏姉さん、久しぶり」
「あら、秋子ちゃん。久しぶり!」
その後は、言うまでもなく旦那と彼氏の話をし始める。
まったく、若い女性というのはこれだから。
……これだから、なんなのだ?
うむ。私もどうやら年のせいかな。思考が取止めなくなってきたらしい。
若い頃は……変わらんな。
あいも変わらずまとまりのない思考をしていたように思う。三つ子の魂百までとは、このことを言うのやも知れん。
すると、お婆さんが立ち上がった。
どうやら、少々考え事が過ぎたようだ。いつの間にか、みな中へと入っていた。
いかんいかん。私もついていかねば。
通り道にある本棚に目が行く。
そこには、お婆さんが昔、よく読んでいたらしい作家の小説が並んでいる。
私の先代、そのまた先代に当たるのだろうか?
その人――ではなく正確には猫――に聞いた話だ。真偽の程は知らん。気にすべきでもないだろう。
そんなことより、今はこのときを楽しむ。
春夏秋冬は巡り、四季は鮮やかに色を変える。
さりとて、同じ季節は二度と来ない。
だからきっと、私は、――私の瞳に映る彼女らは、笑っているのだろう――。
――――了
作品名:季節ものショートショート 作家名:空言縁