季節ものショートショート
ねえ、と私は声をかけた。
え? とぼけた返事。
もう。なんて膨れてみせる。
すると彼は、ごめんごめん、と返してきた。
だから私は、ひどいなぁ、と。
微笑んだまま言う。そして、鞄へと私は手を伸ばした。
中から、紙束を取り出す。
原稿用紙? 彼はそう言った。
対し、ええ。そう返した。
続けて。
それ、あなたのおかげだから。あなたに読んでもらいたいの。
恥ずかしい思いを我慢して、言い切った。
それって……。
そんなことを彼は言い出した。
私は、つい気が動転し、外へと飛び出た。
空を見る。
空から、白い塊が降りてくる。
そして、気づいた。ああ、やっぱり。
私に。この冬に降ったもの。
それは、この――
了
作品名:季節ものショートショート 作家名:空言縁