季節ものショートショート
悩み事? そう、彼は尋ねた。
喫茶店。机の上にはノートと筆箱。一杯の冷めたコーヒー。
窓際の、四人席に一人で腰かける。なにをするということもなく、窓の向こうを、ぼんやりと眺めていた。
そんなとき、ふと声をかけられた。
悩み事? と。
首を回して、彼の方を向く。
声をかけてきたのは、ウェイターの子だった。
どこかで見覚えがある。……ああ、クラスメイトだ。
誰かと思えば、なんて言葉を返す。
すると彼は、笑いながら、ひどいなぁ、なんて。
人懐っこい笑顔。悪くない。
ふふ、と微笑み返し、コーヒーを飲み下す。
苦いけど、冷えているけど、やっぱり悪くない。
私は席を立ち、会計を済ませる。
外に出ると、黒い雲。うん、悪くない。
作品名:季節ものショートショート 作家名:空言縁