季節ものショートショート
そう言われたため、僕は黙って目を瞑った。
僕の手を彼女が握り、ゆるい力で引く。
あまり油が差されていないだろう金属の扉が、軽く軋む音を立てる。
おそらく彼女が扉を開いたのだろう。
リノリウムの床が、コンクリートのものに変わる。
強い風が、僕の頬を撫でた。
秋も本格的になり始めたこの時期、夜の風は少し冷たい。
少し歩いたところで、彼女が手を離した。
「いいって言うまで目を開けては駄目よ。あと少しだけ我慢して」
それから、彼女の足音だけが響く。
そして、僕の後ろから、
「――もう、開けてもいいわ」
僕の目の前に、"the starry night"が広がった。
「――どう、すごいでしょう? この学校、少し高台になっているから。ほら、町があそこにあって、向こうには山があるし、すぐそこの木がちょうど絵の木と同じところにくるのよ」
驚きで、声が出ない。
返事をすることも忘れ、風景に見入る。
僕は 静かに騒々しく、
暗く明るく、
静的であって動的、
そんな彼女の方を向き、わかりきったことを、臆病に訊いた。
「……どうして、僕に見せたんだ?」
私はクスリと笑い、
「あら、わからないかしら? だって、私は――」
―了―
作品名:季節ものショートショート 作家名:空言縁