1 shot, 1 scene.
学校の屋上
学校の屋上。
立ち入り禁止で鍵が掛かっているはずだが、今は鍵を開けられてしまっている。
風が凪ぐ。
柵すらない屋上の縁(へり)に、少女は堂々と腰掛けている。
彼女の近くに、針金が一つ。
おそらく、ドアを開けるのに使ったのだろう。
彼女は、美味そうに煙草を飲み、ふぅ、と白い煙を吐いた。
すると、ノック音。
彼女が振り向くと、そこにはひとりの少年が立っていた。
「よお、遅かったじゃねえか」
「いきなり呼び出して、どうしたんだ?」
彼はメガネを上げながら言った。
「俺にも一本くれ」
「おいおい、生徒会長様がそんなことしていいのか?」
「うるせえ」
彼女は笑いながらも、彼に一本差し出した。
くわえ、ライターを借り、火を付けようとする。
だが。
「ん? つかないぞ」
「ばーか、貸してみろ」
そう言って彼女は、タバコとライターを引ったくり、口にくわえる。
あっという間に火をつけると、彼に差し出した。
「すまんな」
そう言って彼は受け取り、口にくわえ、煙を吸った。
「ゴホッゴホッ! な、なんだこれは。お前、よくこんなのが吸えるな」
「慣れてんだよ」
そう言って彼女は、新しくタバコを取り出し、深く吸った。
「それで、なんのようだ?」
彼は彼女の横に座ると、そう尋ねた。
「さぁねぇ。なんだと思う?」
いじわるそうに笑みを浮かべる。
難しそうな顔を浮かべる彼。そして、彼女は言った。
「アンタ、キスってしたことある?」
「ないが……それがどうかしたか?」
「ちょっと目ぇつむりな」
彼女はまだ長いタバコをもみ消した。
彼は不思議なそうな様子で、目を閉じた。
「この、鈍感野郎!」
ぱぁん! という良い音をたて、彼の頭を叩いた。
未だに首をかしげている彼。
「お前にキスはまだ早えよ」
笑いながら立ち上がり、背を向けた彼女に、
「おい、ちょっと待て」
彼は立ち上がり、肩をつかんだ。
「お前、ちょっとこっち向け」
彼女は肩を震わせ、振り向いた。
二つの影が、一つに重なる。
柔らかな風が、屋上を優しく包んだ――。
そんな、物語の1シーン――。
作品名:1 shot, 1 scene. 作家名:空言縁