「月ヶ瀬」 第十七話
「そんなことがあった次の日やったんです。たしか10日やったかな。朝一番に清一さんと私を縛り付けた男の人が来て、二階から奥さんを連れて行きはりました。二人に抱きかかえられるようにしてはったから・・・もしかしてあの悲鳴は・・・私考えたら真っ青になりましてん」
「それで後から自分たちが逃げる間、喋られへんように容子さんを縛って二階に閉じ込めたんやな。おれが来んかったら死んでたかも知れへんで・・・良かったな」
「ほんまや・・・何でこんなことになるねん」
「旦那はどないしてん?帰らへんかったら不審に思うやろ?」
「疲れた時なんかはここに泊まってたから、ニ三日やったら心配なんかせいへんと思うわ」
「そんな関係か・・・なんかここの村のみんなは男女関係が乱れとるな」
「楽しみなんかあらへんから、浮気するんやろ。夫かて時々出張とか言って帰ってこん時あるから、ひょっとしたら浮気しとるんかも知れへん。雄琴とかに行って気持ちええことしてくる男の人多いから」
「雄琴って琵琶湖の温泉街か?」
「そうや、風俗の店多いから。刑事さんなんかはまさか行きはらへんよね?」
「行くわけないやろ。夫婦仲ええのに」
「羨ましいわ・・・」
「お前を縛った男はな高木って言うんや。聞いてびっくりしたらあかんで、清一の妹の旦那や」
「ほんまでっか?・・・信じられへん。なんでや」
「和田弁護士の失踪と関係して、ひき逃げ事故の犯人を知られたくないように、清一は妻をここに隠したんやけど、会田と逢引しとることを知って殺したんやろ。死体が出てこんとはっきりとは言えへんけど、可能性があるわ」
「奥さんが浮気しただけで殺すん?」
「相手が悪いねん。自分をゆすっとる会田と関係したなんて許されへんかったんやろ」
「清一さんは何で会田という人からゆすられとったん?」
「山崎弁護士を後ろから撥ねて怪我させたやろ。それから、岡崎康代さんとの間に出来た初江さんを13歳の時にここの二階で犯したんや。そのことでゆすられとった。それにな、村長時代に清一は村のお金を着服しとってん。その責任を会田にとらせて自分は定年まで勤めてぎょうさん退職金もろた。会田が生活費もろうて遊んどったんはそういう理由や」
「清一さんは・・・悪い人やったんやね。弁護士さんってまだ見つからへんのやろ?心配やね」
容子の言葉に改めて佐藤は和田がもうダメだと思うようになった。
作品名:「月ヶ瀬」 第十七話 作家名:てっしゅう