タイムマシンの使い道
――それから三十年後。ようやく苦心の末にタイムマシンが完成した。俺はすぐにでも未来に行こうとしたが、その前に外に出てみることにした。思えばこの三十年間ほとんど外に出ることもなかった。食べ物も宅配業者に届けさせていたから、外の様子がまったく分からない。三十年ぶりの外の世界。果たしてどうなっているのだろうか。
俺はドアを開け外に出た。そして目の前の光景を疑った。
空飛ぶ車、立体映像の広告、道行くロボット。すべて俺がずっと頭の中に思い描いてきたあの未来の世界だ。タイムマシンはまだ起動していないはずなのに。いったい何が起こったというのか。
俺は近くにいた人に話を聞いてみた。はじめのうちは不信そうな顔つきでこちらを見ていたが、事情を話すとやがて同情するような眼つきに変わり、今までのことを話してくれた。
なんでも俺が研究室に閉じこもるようになってから急速に科学技術が進歩し、今から二十年前には今のような世界が出来上がったのだという。
俺はその人に礼を言うと研究室に戻り、しばらく呆然としていた。タイムマシンを作らなくても十年も待てば憧れの世界になっていたとは。俺のこの三十年間は何だったのだろうか。そう思いタイムマシンを見ると憎々しく感じる。何が未来に行くことのできる乗り物だ。俺は近くにあった工具を手に取り、タイムマシンに思いっきり振り下ろそうとした。だがすんでのところでやめた。こいつの使い道を思いついたからだ。
俺はすぐさまタイムマシンに乗り込むと過去へと跳んだ。こいつの開発をやめさせに行くために。
作品名:タイムマシンの使い道 作家名:ト部泰史