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タイムマシンの使い道

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きっかけはなんてことはないSF映画だった。空飛ぶ車、立体映像の広告、道行くロボット。当時未来なんて言葉も知らなかった子供の時の俺は、そのまばゆいばかりの世界に心奪われた。いつかあの世界に行ってみたい――。俺は強くそう思った。
 それから数十年たち科学者となった俺は、順風満帆な毎日を送っていた。嫁も去年もらい、腹にはもう子供もできている。
 そんなある日、休日にテレビを見ていると、あの子供のときに見たSF映画がやっていた。今にして見れば大して面白くもないB級映画だ。しかし観ているうちに初めてこの映画を見たときの感情が沸き起こってきた。
 あの世界に行ってみたい――。
 映画を見終わると俺は研究室に向かった。普通であれば未来に行くなんて事は、子供の空想だと諦めてしまうだろう。だが俺は科学者だ。タイムマシンを開発し、未来に行くことも不可能ではないはずだ。
 それからというもの家にほとんど帰らず、タイムマシンの開発に明け暮れた。妻から連絡が何回かあったが、開発のことで頭がいっぱいでほとんど耳に入らない。そして一ヶ月ぶりに家に帰ると妻の姿がなかった。代わりにあったのは離婚届と、赤ん坊の写真――。
 その一件があってから俺は今まで以上に開発に打ち込んだ。妻と子がいなくなった悲しみを紛らわすためだ。それにこうなってしまった以上はタイムマシンを完成させなければ妻という犠牲が無駄になる。
 だが、タイムマシンなんてものはそうそう簡単にできるものではない。最初でこそ何人かいた協力者も一人二人と減り、数ヵ月後には俺だけとなってしまった。開発を辞めようかと考えたこともあったが、もう俺にはタイムマシンしか残されてないことを思うと辞めることもできない。
俺は後戻りができないよう現代社会とのつながりを徐々に絶ち、そのたびに開発にのめりこんでいった。もう俺の目の前にはあの輝かしいほどの未来しか見えていなかった。
作品名:タイムマシンの使い道 作家名:ト部泰史