ありがとう
だが、そんな時は長く続かない。
最初は、仲間の一人が故郷に残した家族に会いたいと言い始めた事だった。
望郷の念に耐えがたく、生き残る当てもなく旅立とうとした彼に、少年は自分が貯めておいた鉱石の一部を手渡した。
万が一辿り着ける場所で換金できれば、生き延びることができるはずだった。
一人村を出た彼は、結局帰ってこなかった。
そう思われていた。
三年ほど経って、彼は帰ってきた。
昔の仲間たちや、家族の手紙を持って。
少年たちは話し合った末、一年ごとに仲間を探す半分と、鉱石を持ち帰って家族に会いに行く半分に分かれることになった。
言い争いが起こった。
『誰が残って、誰が家族に会いに行くのか』について。
長い話し合いは、一月ほどもまとまらなかった。
そのあまりの長さからか、言葉を覚えた村人たちにも言い争いは伝播し、『誰に残ってほしいか』『誰が家族に会いに行くべきか』、村人たちも言い争うようになり、村全体で話し合うことになった。
ここでも、とても長い時間がかかった。
既に青年になった少年は、一番に村に残る事を望まれ、一番に村に残ることを選んだ。
この時、奇妙な違和感が生まれた。
『僕らは、とんでもないことをしてしまった』
『多分、取り返しのつかないことをしてしまった』
そういう違和感だった。