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てっしゅう
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「月ヶ瀬」 第十三話

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「刑事さん、ここに来る前に子供のころをずっと思い出しながら考えていたんです。誰が教えたということやなく、弟がひょっとして私が犯されているところを見たんじゃないかって・・・傍には居なかったけど覗いていたとかじゃないかと思ったんです」

初江の思いは佐藤の心をつかんだ。

「なるほど、そういうことか。それでずっといつか復習してやろうと考えていたということか。でもそれやったら何で偶然に出会った実智子さんを襲ったのかということや。計画的なら偶然を待つことなんてあらへん。事件の日、発作的に実智子さんにいたずらしようとしたときに、あんたにやられるなら死んだ方がましや、って言われて逆上したと調書に書いてあるけど、ほんまはそんなこと言われたんやないかも知れんな。憶測やけど、もっと誠治が逆上するようなことを言われたとしたらや・・・」

「弟は優しい子でした。母親思いやったし、私にもお姉ちゃんってよく話してくれていたし。なんで13歳の女の子にいたずらしようとしたのかいまだに分からへん。もし、私が清一に強姦されているところを見てても、きっと母親になだめられたと思うんです。世間にばれたらここで暮らすことが出来なくなると母に言われたら、我慢するしかなかったでしょう。現実に母は私に我慢するんやでって泣きながら言いましたからね。それは弟や妹のためやって何度も何度も頭下げて・・・」

「辛かったやろうね、察するわ。しかし、清一はほんまに極悪人やな。権力振り回して自分のしたいようにしとる。許されへんな。今回の和田くんの失踪も関係しとるやろ。万が一の時は二度と世間が見られんようにしたる。これはおれの感やけど、笠置温泉の高木っていう昔から居る番頭が何か隠しとるような気がするんや。理由はな、調べたら清一の妹を嫁さんにしとるんや。若い日に温泉に通っていて、高木に縁談持ち掛けたんやろう。今から高木に会いに行くけど一緒に来るか?」

「はい、そうさせてください」

佐藤と静子、初江の乗った奈良県警のパトカーはサイレンを鳴らしながら国道163号線を笠置に向かって走った。

笠置温泉の高木は女将に理由を言わずに退職すると伝えて、和田が失踪したと思われる5月5日の夜に旅館を出て行った。
不審に感じていたが、年齢も年齢なので女将はご苦労様でしたとだけ言って、高木を見送っていた。

サイレンを鳴らした佐藤たちがやってきて、直感的に高木が何かしたのではないかと女将は感じた。
玄関先で高木の退職を伝えると、佐藤は舌を打った。

「逃げられたな・・・静子さん、初江さん、ここからは県警が捜査するから、この旅館で待っていてください。情報はおれが連絡するから勝手に出歩かないで欲しい。嫌な予感がする。捜査員増やして今からこの辺りと月ヶ瀬周辺を一斉捜査します」

佐藤の厳しい表情から静子は兄がもう助からないのではないかと思うようになった。
その気持ちを察するように初江が強く抱きしめた。

「静子さん、あきらめたらあかんよ・・・和田さんはきっと助かる」

「初江さん・・・」