モニのフクス
まっすぐな道を歩いて帰った。月が大きく妖しく光っていた。
ぼくらは渋谷のモヤイ像前に三時に集合した。集まったのは
男子三人と女子三人の計六人。
「さあ、どこにいこうか」アマテが言う。
「オレは今日はショッピングしたいな」
スサノは言った。
「わたしはねー、ビレッジバンガード行きたいな」
ハナが提案すると、
「わたしは、ユニクロ!」とイワが言った。
「イザナはどうする?」と聞かれた。
「わたしはねー、ロフト」
「いいねえ~ロフト、いこう、いこう」スサノはハイテンションだ。
ぼくはなんか憂鬱だった。なぜかわくわくしない。
なにか曇り空で、騒がしかったからだ。ぼくは人混みは嫌いだ。
それでもえっちらとぼくらは渋谷探索にでかけた。
「これ、アプリって言うんだって」
イザナがスマートフォンを出した。
「なにが、できるの?」
スサノが聞く。
「地図やカフェの位置がみれるらしいよ」
「そっか便利だな」
そうぼくがいうとみんなは歩きだした。
まず服を買いにユニクロに向かった。
「うわー広くてきれい」
「おまけに安いんだぜ。コスパいいよな」
ぼくらは店内を、ぐるぐると廻った。
「試着してみるか」アマテが言う。
「いや、こんどにしよう」
ぼくはぼーっと色とりどりの質のよくできた服を見渡していた。
「ツクヨ、どうした?ぼーっとして」
「うーん、なんかみんなと、話したくて」
「じゃあ、カフェ行くか」とアマテは言った。
道のすがらぼくは歩きながら話した。
「博報堂って会社が、電通って会社を抜くんだって」
「へえー」
「鬼は天使になるってよ、小説にあった」
「ふむふむ」みんな聞いていた。
「お金の増殖はとまり、三つの円がバランスを取り戻す
んだって」
「おまえ、ものしりだな」スサノが言う。
「いや、本やネットで、読んだことだよ。みんな」
「なんでも、人間、アダムとイブは、リンゴを食べずに、楽園を追われなかったとか」
「てことは、重労働もなしか?、あとは楽園?」
「そうらしいよ。聖書は表しか書かれてなくて、本当はそうらしい」
みんな、ぼくのつぶやきを、聞き耳立てて、聞いていた。
「なんか、ツクヨ君てものしりだね」イザナが言う。
ぼくは、少し照れた。
「そんなことないよ」
「君はなんていう名前なの?」
「わたしはイザナ、よろしくね」
「ぼくはツクヨ。よろしく」
「おうおう、いきなりカップルたんじょうか?はやくねー?」
スサノが突っ込む。
「そ、そんなんじゃないよ」
「ならいいけどなー、ふふふっ」
ますます照れた。イザナも頬が紅い。
みんな思い思いに、話しながら渋谷の街を歩いていく。
その瞬間、
<ガッガガガーーーーン!>
いきなり、車同士が激突した。道路の周りの
人が集まっていた。前のウインドウが血まみれになっている。
「おい、事故だぜ」
「こえーな、渋谷も」
「うん」イザナは呟いた。
ビレッジバンガードまでは商店街を抜け、
すぐの所にあった。通りに鋭いナイフが狂うように売っている
雑貨はもので溢れている。
異界のものやドグロ、妖怪のたぐいもある。
「なに買う?」アマテは聞いた。
「うん、決めてない」
「じゃあ、みんなで買いたいものを、おのおの買ってこようっ!」とスサノは言って
みんな店内をみた。
「わたしは、これ」ホノニははやばやと決めたそうだ。
<トトロ>というぬいぐるみだ。かわいい。
イザナは、悩んでいた。
「わたしはこれ」
<日本の伝統ものセット>お徳用だった。
「へー、いいな、それ。日本の伝統ってすごく長いよね」
「うん、いいでしょ」
「私はねー、これ」
ハナが持ってきたのは、
音楽の板、三つだった。
「なんでこれ?」
「五二八ヘルツの高周波が、アナログと同じに録音できるみたいだよ。
全部の音楽がソルフェジオ周波数になるんだって」
ハナは嬉しそうだ。
ぼくは、これをえらんだ。
<宇宙と地球、自然動物オールインワンセット十九個お徳用>
「へー、ツクヨ、変わったもの買うなあ」
「うん、やすかったし、セットだからいいと思って」
スサノは店内をまわり、まだ決めかねていた。
「オレはこれ」
<霊界退治最強お祓い札九個、とくに犬に有効>
「すごいもの買うなあ、スサノ」
「まあな」
ぼくはこれでよかったのか、わからなかった。
最後に、ハナが持ってきた。
「わたしはこれ、ハートマークのキーホルダー、ピンクとみどりと紫の」
「へえ、いいし、かわいいな、ハナは」
「うん」
ハナは顔を染め、照れていた。
かわいいな。ぼくはすこし思った。
でももっとも気になったのは、
イザナという女の子だった。乳がふっくらしていて、
大きくなく、ちょうどいい。スタイルも抜群だった。
ちょっと近づいてみた。いい匂いだ。
うなじと髪の毛がキレイだった。ちょっと小指を触れてみた。
「あっ」
イザナは驚いたようだった。
「ごめん、さわっちゃった、きにしないで」
「ツクヨさん、だっけ」
「うん、これからよろしくね」
「はい」
目を見つめ合った。なにかその瞬間糸が結ばれたような電流が全身を流れた。
運命らしき、ささやきが聞こえる。コソコソ。コソコソ。
ぼくらは会計を終え店の外にでた。犬が死んでいた。
血だらけの犬が、死んでいた。血反吐を吐いて苦しんで死んでいた。
ぼくらは恐ろしくなり、そこを離れた。
ぼくは、スマートフォンのスイッチをいれ、
八個から十八個入れたアプリでカフェを探す。
飲食店のアプリでまず探し、そのあとカフェのアプリを起動
させる。これは人工衛星で位置がわかるらしい。便利な世界だ。
道端の電柱に見知らぬ文字や記号が落書きで書かれている。
ぼくにはわからなかった。不思議な感覚である。
ハンズの道をわたりカフェに向かう。位置はこの辺だ。
落書きが書かれている。シールも貼られている。なんだろう。
ぼくらは、カフェ<フラミンゴ>に到着した。紅い店内の中、
丸テーブルにみんなで座る。
「みんな、メニューをきめようぜ」
スサノが言う。ぼくらはメニューを決めた。
なぜかみんな、<魚のソテー、ハーブいり、サラダ付き>と<ペリエ>を頼んだ。
「なんでみんな、同じもの選ぶんだ?」とぼくは聞いてみた。
「だって、みんなの好み、おんなじなんじゃない?、気分だよキブン」
アマテが言う。
「そっか。女子もおんなじ?」
「うん」「みんなおなじ」
ぼくは不思議だった。妙な世界だ。
店員さんに注文をいれる。
「わかりました」と店員は応えた。
「なんか、はなそっか」
「うん」アマテは応える。
「おれさ、ネットでみたらさ、『アマのイワト』という
はなしが、面白いらしい」アマテが言う。
「へえ」みんな関心があるらしい。
「わたしはね、こんな写真を撮ったんだ。
「『富士の虹』の写真だよ」みんな
食い入るようにみていた。
「綺麗だな、虹って」ぼくはつぶやいた。
「おまたせ致しました」店員さんが料理を持ってきた。
おいしそうだ。いい香りが漂っている。
「いただきまーーす」
「うまいね、おいしい」みんな嬉しそうだ。
「カフェってさ、雰囲気いいよね。ムード音楽流れてさ」
アマテが言う。
「うん、居心地いい、ツクヨくん、ナイスチョイス」