俺はキス魔のキッシンジャーですが、何か?【第三章第一話】
翌日の学校。大悟のクラスの朝はいつも通り騒然としている。ほとんど女子だけのクラスでは外目への遠慮がないためだ。
『ガラガラガラ。カッカッカッ。コツコツコツ。』
始業のチャイムが鳴って、教師桃羅が教室へ入って来たが、今日は小さな足音を伴っている。その足音の発信先にクラス女子の虫眼鏡視線が集中した。
「あらあら、ずいぶんかわいい男子じゃない。」「う~ん萌えるわ。」「これって世間でウワサのショタ?」「誰かの弟かしら。」「持ち帰りたい。」
クラスのざわつきを止めるように教師桃羅が手を打った。
「はいはい。みなさんに戒厳令を出しちゃうよ。ここにいるのは、あたしの弟くんだよ。所要で休学となった宇佐鬼大悟くんのダミーだよ。名前は宇佐鬼ショタイゴちゃんだよ。弟くんだけど、限りなくお兄ちゃんみたいなものだよ。みんな仲良くしなくていいからね。あたしが独占欲の餌食にするから~!」
「弟くんには近づけそうにないわね。」「でも代わりに大きな果実を得たわ。」「そうそう。」
「キッシンジャーなんていない方が平和だし。」「そうね。」「やっと安心して校内を歩けるわ。」
教師桃羅の大悟ダミー宣言をあっさり受け入れてしまうクラスメイト。大悟の存在の軽さに対して、スーパードライである。
同じ日の夕方、大悟家にいた楡浬はからだの不調に苦しんでいた。
「熱があるわ。それにどうしてこんなにだるいの?あちこちがひどい筋肉痛みたいだわ。何の運動もしてないのに。」
「やはりそちに影響が出てきたようじゃの。宇佐鬼大悟のショタ化は食品ラップを剥ぎ取ったようじゃ。」
「何なのよ、このつるぺた神祖。」
「そちこそ、現役バリバリの元つるぺたではないか。今でも大したことはないぞ。」
「そんなことないわ。アタシはショートケーキのイチゴを最後に食べるタイプなのよ。未来を後に取っておいたのが今花開きつつあるのよ。」
楡浬の視線は手にしたBL本に釘づけで、白弦には言葉が聞こえるように話している。目はBL本の見過ぎで、すっかり充血している。
「そちが服用している防腐剤は本来、1日1粒で効果があるはずじゃった。じゃか、宇佐鬼大悟が小さくなって、魔境放眼の力がそれだけ弱まった。饅頭人と人間では防腐剤の効き方がそもそも違う。宇佐鬼大悟の魔境放眼の力を足して、饅頭人と同等じゃったが、そうではなくなったというワケじゃ。そちは1日に4粒飲まないとからだが持たぬぞ。」
「ま、まさか。そんなことが。ウソだと言ってくりぇ。」
楡浬のことが気になって早退してきた大悟。白弦の話を一部始終聞いてしまった。
「あれれ。宇佐鬼大悟に聞かれてしまったか。ちょうどよかったわ。そのウサミミの体調が悪くなったら説明するつもりじゃったからのう。」
「今の話からすると、楡浬のからだは、あと一週間で腐敗し始めるということきゃ?」
「ビンゴじゃ。妾の知識は溢れ出る知識の泉じゃ。一家に一台あればパソコンより便利じゃぞ。」
「ああ、そうだにゃ。ありがたくて涙が枯れるぞ。」
「いちいち棘のあるヤツじゃの。早死に・・は、せんじゃろうな、その若い姿ではな。」
「今は会話遊びをしてる気分じゃないじょ。」
「ショタイゴ、いや大悟。アタシのことはほっとけばいいわ。あと一週間で、ナンチャッテ許嫁から解放されるんだから、喜びなさいよ。」
「それもそうだにゃ。落ち込んでも仕方ないし。元気出すかにゃ。」
「そうよ。それでいいのよ。その方が大悟らしいわ。」
楡浬は毅然と部屋に戻った。ドアを強く閉める音が1階まで聞こえた。
その二階の部屋からすすり泣く声が神経質になった大悟にはよく聞こえたような気がした。大悟はやりきれない思いでいっぱいになり、世界が真っ暗になったように見えた。楡浬の気持ちを少しでも共有できたらと無意識に大悟が考えたことだったが、所詮楡浬に迫る絶対的な死将軍の前では無力であった。
翌日、ショタイゴちゃんになってしまった大悟は、衣好花が自発的専属お世話という、欲望の捌け口に成り下がっていた。さすがにショタイゴちゃんサイズではお姫様抱っこ不能であり、騙流のストレスは溜まる一方であった。
その日の夜から白弦が家を空けた。それから3日経過して、楡浬の防腐剤有効期間があと3日となった日の朝。
「ショタイゴ!会いたかったぞ。抱いてくれ!」
白弦がちょうど起きてきたショタイゴちゃんにダイブした。サイズ的に現時点でただひとりお姫様抱っこ可能な白弦。
「スリーポイントシュートで誤解を招くようなことを言うにゃ!」
「たかが3点ぐらいで騒ぐでない。妾に本気出させるじゃないぞ。脱いだらスゴいからな。」
「どこから見てもつるぺたが露呈するだけだりょ。」
「そんなことはないんじゃが、それは後日の宿題としておこう。さて、これをみるがよい。幼女グッズをたくさん買ってきたぞ。これで幼女スキルを高位置キープじゃ。人間界のロリコンが大集合するのは必定じゃ。」
「でも実体が老女だとバレたら誰も寄り付かないじょ。」
「そんなことはない!幼女は見た目がすべてなんじゃ!って、そんな議論をしてる時ではない。この3日間人間界を探索して、防腐剤に頼らない、根本的な対処の仕方がわかったのじゃ。」
「それは本当か!そうであればつるぺたが巨乳に変わる以上の衝撃だ。」
「例えが悪いぞ。いや、それは悪くないかもな。巨乳幼女。新しいコンセプトじゃ。幼女マーケットの裾野拡大じゃ。そうじゃない!妾は人間界にある壊れた精神の溜まり場を探しておった。地獄への通路はひとつではない。饅頭人が人間界にやってくるとしたら、通関規制の厳格なパンチラボ以外にあるはずじゃ。人間の邪念が集合するところが通関の立地条件じゃからな。」
「パンチラボは男のパンチラへの醜い欲望が集まってるというわけきゃ?」
「そういうことじゃ。狂った果実が異次元空間を歪曲させるんじゃ。それが地獄への一本道というわけじゃ。本当に近づきたくない場所じゃ。どうやらそこに饅頭人から解放するヒントがありそうじゃ。」
「それはどこだ。今すぐ行くじょ。」
「学校はどうするんじゃ?」
「どうせ、ショタイゴちゃんの出席日数なんか関係にゃい。気の迷いという理由で休みにするじょ。」
「ならば現場に直行じゃ。」
大悟と白弦は楡浬たちに黙ってふたりで現地に向かった。ショタイゴちゃんなので、白弦しか抱えられないという事情もある。
「重いじょ。どうしてショタイゴちゃんのからだで、つるぺたを抱えないといけないのかにゃ?」
「妾は長年雲の上にいたから歩く体力に乏しいのじゃ。」
「でも昨日まで、今から行くところを自分の足で探してたんじゃないのきゃ?」
「それは風魔法で空から飛んでやったんじゃ。」
「こら!それならここでも同じことをやればいいんじゃないのきゃ?」
「二人乗りは難しいんじゃ。地獄では下に降り立っただけじゃったから問題なかったが、上昇するには相当な魔力が必要じゃ。人間界では魔力が十分には使えないから、ダメなのじゃ。」
「そうきゃ。それなら仕方ないにゃ。」
「ああ。それにこの方が楽じゃ。自然の風も心地よい。」
「結局そこかよ!」
電車に乗って少し歩いたところに立ったふたり。
「ここじゃ。人呼んで、『自殺マンション』。」
『ガラガラガラ。カッカッカッ。コツコツコツ。』
始業のチャイムが鳴って、教師桃羅が教室へ入って来たが、今日は小さな足音を伴っている。その足音の発信先にクラス女子の虫眼鏡視線が集中した。
「あらあら、ずいぶんかわいい男子じゃない。」「う~ん萌えるわ。」「これって世間でウワサのショタ?」「誰かの弟かしら。」「持ち帰りたい。」
クラスのざわつきを止めるように教師桃羅が手を打った。
「はいはい。みなさんに戒厳令を出しちゃうよ。ここにいるのは、あたしの弟くんだよ。所要で休学となった宇佐鬼大悟くんのダミーだよ。名前は宇佐鬼ショタイゴちゃんだよ。弟くんだけど、限りなくお兄ちゃんみたいなものだよ。みんな仲良くしなくていいからね。あたしが独占欲の餌食にするから~!」
「弟くんには近づけそうにないわね。」「でも代わりに大きな果実を得たわ。」「そうそう。」
「キッシンジャーなんていない方が平和だし。」「そうね。」「やっと安心して校内を歩けるわ。」
教師桃羅の大悟ダミー宣言をあっさり受け入れてしまうクラスメイト。大悟の存在の軽さに対して、スーパードライである。
同じ日の夕方、大悟家にいた楡浬はからだの不調に苦しんでいた。
「熱があるわ。それにどうしてこんなにだるいの?あちこちがひどい筋肉痛みたいだわ。何の運動もしてないのに。」
「やはりそちに影響が出てきたようじゃの。宇佐鬼大悟のショタ化は食品ラップを剥ぎ取ったようじゃ。」
「何なのよ、このつるぺた神祖。」
「そちこそ、現役バリバリの元つるぺたではないか。今でも大したことはないぞ。」
「そんなことないわ。アタシはショートケーキのイチゴを最後に食べるタイプなのよ。未来を後に取っておいたのが今花開きつつあるのよ。」
楡浬の視線は手にしたBL本に釘づけで、白弦には言葉が聞こえるように話している。目はBL本の見過ぎで、すっかり充血している。
「そちが服用している防腐剤は本来、1日1粒で効果があるはずじゃった。じゃか、宇佐鬼大悟が小さくなって、魔境放眼の力がそれだけ弱まった。饅頭人と人間では防腐剤の効き方がそもそも違う。宇佐鬼大悟の魔境放眼の力を足して、饅頭人と同等じゃったが、そうではなくなったというワケじゃ。そちは1日に4粒飲まないとからだが持たぬぞ。」
「ま、まさか。そんなことが。ウソだと言ってくりぇ。」
楡浬のことが気になって早退してきた大悟。白弦の話を一部始終聞いてしまった。
「あれれ。宇佐鬼大悟に聞かれてしまったか。ちょうどよかったわ。そのウサミミの体調が悪くなったら説明するつもりじゃったからのう。」
「今の話からすると、楡浬のからだは、あと一週間で腐敗し始めるということきゃ?」
「ビンゴじゃ。妾の知識は溢れ出る知識の泉じゃ。一家に一台あればパソコンより便利じゃぞ。」
「ああ、そうだにゃ。ありがたくて涙が枯れるぞ。」
「いちいち棘のあるヤツじゃの。早死に・・は、せんじゃろうな、その若い姿ではな。」
「今は会話遊びをしてる気分じゃないじょ。」
「ショタイゴ、いや大悟。アタシのことはほっとけばいいわ。あと一週間で、ナンチャッテ許嫁から解放されるんだから、喜びなさいよ。」
「それもそうだにゃ。落ち込んでも仕方ないし。元気出すかにゃ。」
「そうよ。それでいいのよ。その方が大悟らしいわ。」
楡浬は毅然と部屋に戻った。ドアを強く閉める音が1階まで聞こえた。
その二階の部屋からすすり泣く声が神経質になった大悟にはよく聞こえたような気がした。大悟はやりきれない思いでいっぱいになり、世界が真っ暗になったように見えた。楡浬の気持ちを少しでも共有できたらと無意識に大悟が考えたことだったが、所詮楡浬に迫る絶対的な死将軍の前では無力であった。
翌日、ショタイゴちゃんになってしまった大悟は、衣好花が自発的専属お世話という、欲望の捌け口に成り下がっていた。さすがにショタイゴちゃんサイズではお姫様抱っこ不能であり、騙流のストレスは溜まる一方であった。
その日の夜から白弦が家を空けた。それから3日経過して、楡浬の防腐剤有効期間があと3日となった日の朝。
「ショタイゴ!会いたかったぞ。抱いてくれ!」
白弦がちょうど起きてきたショタイゴちゃんにダイブした。サイズ的に現時点でただひとりお姫様抱っこ可能な白弦。
「スリーポイントシュートで誤解を招くようなことを言うにゃ!」
「たかが3点ぐらいで騒ぐでない。妾に本気出させるじゃないぞ。脱いだらスゴいからな。」
「どこから見てもつるぺたが露呈するだけだりょ。」
「そんなことはないんじゃが、それは後日の宿題としておこう。さて、これをみるがよい。幼女グッズをたくさん買ってきたぞ。これで幼女スキルを高位置キープじゃ。人間界のロリコンが大集合するのは必定じゃ。」
「でも実体が老女だとバレたら誰も寄り付かないじょ。」
「そんなことはない!幼女は見た目がすべてなんじゃ!って、そんな議論をしてる時ではない。この3日間人間界を探索して、防腐剤に頼らない、根本的な対処の仕方がわかったのじゃ。」
「それは本当か!そうであればつるぺたが巨乳に変わる以上の衝撃だ。」
「例えが悪いぞ。いや、それは悪くないかもな。巨乳幼女。新しいコンセプトじゃ。幼女マーケットの裾野拡大じゃ。そうじゃない!妾は人間界にある壊れた精神の溜まり場を探しておった。地獄への通路はひとつではない。饅頭人が人間界にやってくるとしたら、通関規制の厳格なパンチラボ以外にあるはずじゃ。人間の邪念が集合するところが通関の立地条件じゃからな。」
「パンチラボは男のパンチラへの醜い欲望が集まってるというわけきゃ?」
「そういうことじゃ。狂った果実が異次元空間を歪曲させるんじゃ。それが地獄への一本道というわけじゃ。本当に近づきたくない場所じゃ。どうやらそこに饅頭人から解放するヒントがありそうじゃ。」
「それはどこだ。今すぐ行くじょ。」
「学校はどうするんじゃ?」
「どうせ、ショタイゴちゃんの出席日数なんか関係にゃい。気の迷いという理由で休みにするじょ。」
「ならば現場に直行じゃ。」
大悟と白弦は楡浬たちに黙ってふたりで現地に向かった。ショタイゴちゃんなので、白弦しか抱えられないという事情もある。
「重いじょ。どうしてショタイゴちゃんのからだで、つるぺたを抱えないといけないのかにゃ?」
「妾は長年雲の上にいたから歩く体力に乏しいのじゃ。」
「でも昨日まで、今から行くところを自分の足で探してたんじゃないのきゃ?」
「それは風魔法で空から飛んでやったんじゃ。」
「こら!それならここでも同じことをやればいいんじゃないのきゃ?」
「二人乗りは難しいんじゃ。地獄では下に降り立っただけじゃったから問題なかったが、上昇するには相当な魔力が必要じゃ。人間界では魔力が十分には使えないから、ダメなのじゃ。」
「そうきゃ。それなら仕方ないにゃ。」
「ああ。それにこの方が楽じゃ。自然の風も心地よい。」
「結局そこかよ!」
電車に乗って少し歩いたところに立ったふたり。
「ここじゃ。人呼んで、『自殺マンション』。」
作品名:俺はキス魔のキッシンジャーですが、何か?【第三章第一話】 作家名:木mori